ハダカデバネズミは大人になっても卵子を新たに生産し続けると判明!
動物界の異端者がクマムシならば、哺乳類界の異端児はハダカデバネズミです。
これまでの研究でハダカデバネズミは
がんに対する極めて高い耐性を持ち
低酸素・無酸素状態でも一定期間生存でき
基本的に痛みを感じることがなく
げっ歯類で最も長い30年以上の寿命を持ち
哺乳類でありながらアリやハチのような女王だけが妊娠できる真社会性を持つ
など、さまざまな奇妙な性質を持っていることが明らかになってきました。
しかしピッツバーグ大学のミゲル・ブリエニョ・エンリケス医学博士にとって最も興味をひいたのは、ハダカデバネズミの「生涯にわたる妊娠能力」でした。
人間やマウスなどほとんどの哺乳類のメスの場合、卵子は誕生時に作られたものが全てで、卵子の大元となる生殖細胞が胎児のうちに不活性化してしまうため、生まれた後に新たに生産することができません。
そのため卵子の質と数は、年齢とともに徐々に劣化して生殖能力を失っていきます。
実際、人間の場合も40代になると卵子数の枯渇と質の劣化が顕著になり、45~55歳になると全ての卵子が死滅して妊娠が不可能になってしまいます。
(※誕生直後には卵巣内に200万個の卵子がありますが、思春期に入る頃には20万個になり、30代では1~3万個まで減ってしまいます)
マウスの場合はさらに期間が短く、生後9か月の段階で生殖能力が低下しはじめます。
では、生涯を通じて妊娠できるハダカデバネズミの卵子どうなっているのでしょうか?
謎を解明すべくピッツバーグ大学の研究者たちは、ハダカデバネズミとマウスの卵巣を、さまざまな発育段階で比較しました。
すると両者は体の大きさはそれほど違いがないにもかかわらず、生後8日段階でのハダカデバネズミの卵子数は同じく生後8日のマウスの95倍も存在することが明らかになりました。
また卵子数の変化を追跡したところ、ハダカデバネズミは卵形性のプロセス全体が生後にも起こるようになっており、誕生後の90日後でも、卵子の大元となる生殖細胞(卵子前駆細胞)が活発に分裂を繰り返し、将来の卵子数の母数を増やし続けていました。
さらに、これらの卵子前駆細胞は10歳になった個体でも確認されており、ハダカデバネズミでは卵形性が生涯続く可能性が示されました。
つまりハダカデバネズミが生涯にわたり妊娠できるのは、必要に応じて常に新鮮な卵子を追加生産できるからと言えるでしょう。
しかしそうなると気になるのが、その理由です。
生涯にわたって新鮮な卵子を追加生産できるのは、種の繁栄にプラスになるのは明らかです。
しかし人間やマウスなど他の哺乳類は、そのような能力なしに、十分に子孫を作ることが可能です。
そのためハダカデバネズミが卵子の追加生産能力を獲得した背景には、単純な種の繁栄以外の、ハダカデバネズミにのみ存在する「特殊事情」が存在していたと考えられます。
そのような特殊事情の候補として最も有力なのは、女王を中心とした真社会性と言えるでしょう。