竜血樹から流れる赤い汁の正体とは?
では、竜血樹を切った時に出てくる「赤い汁」の正体は何なのでしょうか?
一見すると血液のようで非常にグロテスクに感じますが、この正体は「樹液」です。
樹液には、主に維管束の中の汁が含まれており、水や栄養などの物質を運搬する役割があります。
また、傷つけられた時に、自身を補修する役割もあります。寒さから身を守るために糖を多く含む樹液の場合には、昆虫類に好んで舐めらることは既知の事実かと思います。
樹液から生まれた宝石が琥珀であるように、多くの樹液は琥珀色をしています。ではなぜ竜血樹の樹液はこんなに赤いのでしょうか?
それは、アントシアニジン化合物を含むためです。
アントシアニジン類に糖がくっ付いたものを「アントシアニン」と呼びますが、ブドウ、ブルーベリー、イチゴ、ナス、紫キャベツなどに含まれている色素であることが有名かと思います。
これらの植物は他の植物に比べるとかなり赤みの強い汁を出すため、そう言われると納得がいくかと思います。
血のようにグロテスクに見える竜血ですが、血とは全くことなる物なのですね。
では、なぜ「竜血」と呼ばれるようになったのでしょうか?
それは西洋・東洋で古くから赤味を帯びた固形の物質を指すのに「竜血」という言葉が広く利用されてたことに関係します。
古くから人々は、神秘的で目立つ赤色の物を、神秘的な動物「ドラゴン」に見立てこのように呼んでいたようです。
竜血の用途とは
この特徴的な赤い汁は、古くから人々の生活に利用されてきた記録があります。
主に医薬品、染料、魔術用具、観葉植物として愛されてきました。
質の良いものは商人によって高値で取引されてきましたが、その歴史は2000年以上とも言われています。
年輪がないため、樹齢は観察記録などからの推定で測られていますが、数100年から1000年以上に及ぶものもあるようです。商人の取引の歴史を見てきた竜血樹もあるかもしれませんね。
竜血樹の樹液から揮発性物質を取り除き、樹脂を固めたものの別名を「麒麟血(キリンケツ)」と呼びます。これは、古代ローマ時代から止血や鎮痛の薬品として重宝されてきた記録があります。
また、高級な布や物の染料として使われてきた記録も残っています。
17~18世紀にかけて制作されたバイオリンの最高峰「ストラディヴァリウス」にも竜血樹の染料が使われています。
中世では、呪術や錬金術の道具として、竜血樹が使われていた記録もあります。
「高価で、特殊な用途」で使用された歴史を持つ竜血ですが、現代の竜血樹は日本でも種子、苗、幼木が簡単に買える観葉植物となっています。
ほぼ水やりは必要がなく、生命力も強く、成長も遅いため、鉢植えで育てるのが非常に簡単です。
また、種、挿し木、伏せ枝など増やし方の種類も多く簡単で、人気の観葉植物となっています。ぜひ、お家に1本の竜血樹を迎えるのはいかがでしょうか?
環境問題と竜血樹
近年の地球温暖化の影響で、竜血樹を取り巻く生態系も変化しています。
海面の温度が上昇したことにより、以前より高地で霧ができるようになりました。つまり、竜血樹の近くで発生していた霧が少なくなってしまったのです。
この影響により、竜血樹が枯れ始めています。
地元の人々は「一度切ったら、数年間は樹を休ませる」などの対策を取っていますが、その程度の対策では太刀打ちできなくなっています。
原産国のソコトラ島の人々は、竜血樹の取引で生計を立てている人もいますが、年々生活が苦しくなっているようです。
竜血樹は非常に特徴的で興味深い木ですが、将来的にはその姿が消え本当に伝説の木になってしまうかもしれません。