「果てしなき黄昏」の中で多くの惑星が生命を維持できると判明!
私たちにとってもっとも身近な恒星が太陽であるため、銀河系のなかで太陽のような恒星は、もっともありふれたタイプの星だと考えている人は多いかもしれません。
しかし実際に銀河系で最もありふれた恒星は、私たちの太陽とはかなり異なる「赤色矮星」と呼ばれるグループです。
赤色矮星は天の川銀河に存在する恒星の約85%を占めていると考えられており、地球近傍(約10光年)に存在する60個の恒星のうち、実に50個が赤色矮星となっています。
また赤色矮星の多くは太陽の1割から5割ほどの質量しかもたない小さな恒星ですが、その寿命は極めて長く、最も軽くて燃費のいい赤色矮星は数兆年にわたり同じ輝きのレベルを維持できると考えられています。
ちなみに太陽の寿命は100億年程度で、すでに50億歳に達しています。
さらに近年の系外惑星探査によって、赤色矮星の40%が、恒星からの距離が丁度いい「ハビタブルゾーン」内部に地球型の岩石惑星を持つと判明し、それら惑星の90%は構成成分にはかなり多く(10%ほど)の水が含まれる可能性も示されています。
実際、2022年に行われた研究では、地球から100光年先に存在する赤色矮星の周りに、水に覆われた「海洋型惑星」が存在している可能性が高いとの結果が得られています。
しかし赤色矮星には固有の問題がありました。
赤色矮星は太陽に比べて放射エネルギーが低いため、生命に適したハビタブルゾーンも太陽に比べて恒星にぐっと近い位置に形成されます。
そのため恒星が発する重力の影響が大きく、ハビタブルゾーン内に存在する地球型惑星の多くが「潮汐ロック」と呼ばれる影響を受けることになります。
潮汐ロックとは、地球における月のように、惑星が常に同じ面を恒星に向ける現象です。これにより惑星の表面には永遠に昼と夜の領域が発生してしまいます。
こうなると、たとえ恒星からの距離が丁度よくても、惑星の半球は灼熱地獄となり、反対側の半球は凍てつく氷地獄と化し、どちらの半球でも生命を育むことが困難になっていまいます。
しかし昼と夜の中間付近では、まだ望みがありました。
永遠の昼と永遠の夜の中間で「永遠の黄昏」となっている地域では、熱気と冷気の中和が起こり、居住可能な温度に保たれている可能性があったからです。
ただ、これまでの研究では主に「可能性」が論じられているだけで、中間領域が居住可能な環境になるのに、どんな条件が必要になるかはわかっていませんでした。
そこで今回、カリフォルニア大学の研究者たちは、地球規模の気候分析に用いられるシミュレーションを用いて、赤色矮星の直近を回転する架空の惑星の大気を再現することにしました。
結果、惑星に居住可能な中間領域が出現するには、第一に、昼側と夜側の気温差が大きくなることが重要だと判明します。
昼側と夜側の気温差が大きければ大きいほど、居住可能な中間領域が広がっていきます。
しかし海洋型惑星では温度の循環速度が速すぎるために、この昼側と夜側の気温差を広げにくく、居住可能な中間領域は出現しませんでした。
この問題は地球の気候変動も、海流の動きが大きな役割を果たしていることを考えると理解しやすいかもしれません。
一方、水の存在が限られている陸地が多い惑星では、比較的容易に居住可能な中間領域が出現し、長期的にも安定して環境を維持できることが示されました。
そのため研究者たちは、将来的に赤色矮星のまわりで居住可能な惑星を探した場合、上の図のような、海や湖が昼側と夜側の境界に沿って帯状に分布している惑星がみつかる可能性が高いと結論しています。
また研究結果を参考にすることで、惑星探査の優先度を最適なものに並び替えることも可能になり地球外生命の探索にも役立つと考えられます。
ただもし宇宙に存在する生命の故郷の多くが、リング状の海を持つ永遠の黄昏に照らされた惑星だったとしたら、地球の生命や地球で文明を発展させた人類は、かなり特異な存在になるかもしれませんね。