緊張で尿意を催すのは、脅威に対応するための「機能の取捨選択」だった
急に起こる我慢できないような強い尿意を催す症状を「過活動膀胱(OAB)」と言います。
通常であれば、膀胱が脳からの指令によって正常にコントロールされているのに、何らかの原因でそのコントロールが失われ、急におしっこしたくなるのです。
そしてこのOABは、私たちが実感しているように、「よくあること」です。
例えばアメリカだけでも3300万人の成人がOABを経験しています。
その原因は、糖尿病や神経疾患、ホルモンの影響など様々ですが、この中の1つにストレスや不安、緊張も含まれます。
緊張で尿意を催す傾向は、医学的に広く確認されてきたことなのです。
そしてこの傾向は動物にも当てはまります。
福井大学の2019年の研究では、7日間ストレスにさらされ続けたラットは、膀胱が収縮し、おしっこを我慢できなくなると報告されました。
また同じことは野生の動物でも観測されています。
トラ(捕食者)の脅威にさらされたシカは、全速力で逃げる際中におもらしをすることがよくあるのです。
では動物や人間は、どうして緊張で尿意を催すのでしょうか?
その答えは、生物に備わっている「闘争・逃走反応」が関係しています。
生物は脅威にさらされると、生存のために戦うか逃げるかの準備を整えます。
例えば、体内からアドレナリンが分泌され、目が冴え、呼吸がはやくなることはよく知られています。
そしてこの闘争・逃走反応には、脅威への対処にエネルギーを注ぐために、体の余分な機能をシャットダウンするという役割もあります。
尿を膀胱に貯めておくための機能は生存とはあまり関係がないため、ストレスにさらされると、膀胱のコントロール機能が放棄されてしまうのです。
その時の体の反応も考えてみましょう。
脳が強いストレスを感じると、「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)」という物質を放出。
これが膀胱のホルモン制御を混乱させ、膀胱の筋肉を強く収縮させるのです。
通常時の膀胱は、膀胱が満たされるまで筋肉が弛緩した状態にあり、膀胱が満たされてもおしっこのタイミングはある程度コントロールできます。
しかし、緊張によってCRHが放出されてしまうと、膀胱の筋肉が強制的に収縮し、おしっこのコントロール機能が放棄されます。
結果として、おしっこがそれほど溜まっていなくても我慢できないほどの強い尿意を感じてしまうのです。
闘争・逃走反応は、目の前の脅威に対処できるよう「最も大事な機能を優先する」という極めて優れた反応です。
しかし現代人では、「おもらししてでも命だけは守る」場面に遭遇することなどほとんどないため、むしろ「大事なタイミングでおしっこしたくなる」というデメリットだけが際立つようです。
これを「平和な証拠」だと考えるか、「困った反応」だと考えるかは人それぞれでしょう。
もちろん、不安障害が原因で極度に緊張し、「過活動膀胱(OAB)」になる人もいます。
実際、過活動膀胱を経験する人の30%は不安障害だと言われており、特に女性の症状は重い傾向にあるようです。
ストレスや緊張でおしっこしたくなるのは、生物として普通の反応でした。
そのため、この反応が強すぎて悩んでいる人は、そもそもストレスを感じすぎる自分の状態や、ストレスを与えすぎる環境に対処していくべきなのかもしれません。