日本の倫理観:ヒト胚の14日を超えた培養をどう思うか?
日本の倫理観:ヒト胚の14日を超えた培養をどう思うか? / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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日本人の生命倫理調査:ヒト胚培養について一般人より専門家の方が禁止意見が多い (2/2)

2023.04.01 Saturday

前ページ14日ルールが定められた本当の理由

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日本の一般市民と研究者は14日ルールをどう考えているか?

日本人の多くが14日を超えたヒト胚培養を容認すべきと考えています
日本人の多くが14日を超えたヒト胚培養を容認すべきと考えています / Credit:東京大学 . ヒト胚を14日以上培養する研究についての意識調査

日本人は14日ルールについてどう思っているのか?

答えを得るために研究者たちは一般市民3000人と幹細胞や胚関連の研究者535人にアンケートを行い14日を超えるヒト胚の培養を容認するべきか、禁止すべきかを尋ねました。

結果、上の図のような回答が得られました。

図からまずわかるのは、一般市民でも研究者でも容認派が禁止派よりも多いという事実です。

一般市民の場合、容認は37.9%であり、禁止の19.2%に対してほぼ倍となっています。

同様の傾向は研究者たちの間でもみられ、容認が46.2%に対して禁止はおよそ半分の24.5%に留まっています。

一方、一般市民と研究者を比べると研究者では判断不能の割合が大きく減り、容認と禁止の両方の割合が大きく伸びていました。

研究者たちが詳しくデータを分析したところ、一般市民の判断不能との回答も、ヒト胚や14日ルールにかんする理解度があがるにつれて低下し、容認と禁止の両方が増加することが判明しました。

結果を比べたとき、禁止すべきと考える人が一般人より専門家の方に多いことは意外に思う人もいるかもしれませんが、これは専門家の方が知識があるぶん、問題の深刻さもわかっているため、より慎重な態度を取る人も増えるのだと考えられます。

これまで科学にかんする情報提供を行えば行うほど、一般市民は科学技術に感じる脅威や不安が減って、科学技術への支持が高まると考えられていました。

しかし近年ではこの考えが間違いだとする証拠が増えており、科学知識の量は必ずしも科学技術への支持につながるわけではないことが示されています。

今回の禁止と考える専門家の方が一般人より多いという結果は、この報告と一致していると考えられます。

たとえば2018年に行われた研究では、科学技術にかんする理解度の高い人ほどゲノム編集などを受け入れる傾向があるものの、そのリスクに対する懸念も強くなっていくことが示されました。

理解度が高くなると中立的な態度が減り、容認と禁止の両方の比率上昇するという結果は、今回の研究にも当てはまるものといえます。

ただ研究者たちは、一般市民のほうが「判断できない」と答える傾向が強かったのは、胚にかんする研究に限らず、日本人の科学技術への基本的な態度も影響していると述べています。

たとえば再生医療研究を推進すべきかどうかを「日本・韓国・米国・英国・ドイツ・フランス」で尋ねたケースでは、日本は「わからない」と答えた割合が最も高くなっていました。

どうやら日本人は科学技術の是非において、他国に比べて意見を保留する人々が多いようです。

また宗教的信念が意識調査に表す影響を調べたところ、日本ではほとんど存在しないことが示され、他国との大きな違いとなりました。

研究者たちは日本で多くの人々がかかわる仏教の指導者たちが、ヒト胚の利用や中絶などについて、他国の宗教指導者に比べて明確な態度をとっていないことや、日本人の多くが熱心に宗教を信じていないことが原因だと述べています。

今回の研究はヒト胚培養にかんする研究者と一般市民の両方の意識を大規模に調査した最初のものであり、今後の政策決定の参考になると考えられます。

ヒト胚や胚様体の利用の是非は今後議論が避けられない問題です。

最後に研究者たちは14日ルールを見直すかを議論する場合にも、一般市民を置き去りにせずに、情報提供を続けることが重要であると結論しています。

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