アムールトラの性格は「オラオラ系」か「控えめ系」?
ネコ科最大の動物である「アムールトラ(学名:Panthera tigris altaica)」は、ロシア極東および中国北東部の寒冷な森林地帯にのみ生息しています。
オスの体長は平均2.5メートルで、体重は300キロに達しますが、飼育個体は野生個体より大型化する傾向にあり、中には450キロを超える個体もいるそうです。
しかし他種のトラと同様、生息地の減少や密猟のため絶滅が危惧されており、野生環境ではすでに500頭ほどしか残っていないという。
そこで研究チームはアムールトラの繁殖や保護活動に役立てる目的で、個体間の性格特性を調べることにしました。
性格によって狩猟や繁殖能力に差があった!
本研究では、中国北東部の2つの野生動物保護区に生息するアムールトラ248頭を対象に、その健康管理や生態調査を担当している50名以上の飼育員および獣医師にアンケート調査を行っています。
ここでは、アムールトラの性格について「野蛮である」「堂々としている」「意地悪い」「誠実である」「決断力がある」「親しみやすい」など、最大70個の形容詞で表現した項目で評価付けをしてもらいました。
研究主任のロザリンド・アーデン(Rosalind Arden)氏によると、半野生の環境でトラの性格を調べた研究は世界で初めてだといいます。
そして800枚を超えるアンケートを分析した結果、アムールトラの性格は以下の2つに分けられることが判明しました。
・自信、競争心、野心などの特性が強い「威厳タイプ」
・従順、寛容、優しさなどの特性が強い「平穏タイプ」
性格ごとの特徴をまとめると、威厳タイプは獲物を狩猟する頻度が高く、食事量や交尾の回数が多いことが分かりました。
加えて集団における地位が高く、平穏タイプのトラと比べてより健康的であることも判明しています。
これは狩りに積極的であることで、普段から十分な食事量が得られているためでしょう。
他方で、平穏タイプのトラは威厳タイプと比べると、狩猟頻度や食事量が少なく、交尾行動の積極性も劣ることが示されました。
こうした平穏タイプの方は、仲間に対して従順であったり、愛情深く、親しみやすい傾向が強かったとのことです。
また、これらの性格タイプの違いにオス・メスの性差はほとんど見られませんでした。
こうしてみるとトラにも人間同様に、大人しくて平和的なタイプと、傍若無人なオラオラ系のタイプがいるらしいことが伺えます。
なお、今回の研究対象はすべて半飼育下のトラであったため、「完全な野生のトラを調査した場合には、結果がもう少し異なる可能性がある」とアーデン氏は述べています。
性格の理解は保護活動に役立つ
本研究の成果は、アムールトラの保護を進める上で貴重な洞察を提供してくれるとチームは考えています。
「アムールトラにも私たちと同様に、一頭一頭に個体差があります。
彼らの個性は私たちが観察したように、狩りや繁殖能力、健康状態と密接に関係しているため、性格特性を理解することは絶滅危惧種の保護に大いに役立つでしょう」
アーデン氏はそう述べています。
動物界では、攻撃的で支配的な性格が常に成功をもたらすとは限りません。
人間やチンパンジーのような霊長類では、協調性があり友好的な個体の方が社会の中でうまく生活できる場合があります。
この場合、三国志の呂布がいくら強くても勝者になれなかったというのは、わかりやすい例えかもしれません。
そのため広大な縄張りを持ち、それを守りながら暮らしていかなければならないアムールトラであっても、その性格には威厳を守る方向性と、融和を尊ぶ方向性があるのかもしれません。
研究チームは今後、野生を含めたアムールトラの性格特性をさらに調査することで、保護のための継続的な取り組みを強化したいと考えています。