MLBではホームランが劇的に増加している
外野フェンスを越える「ホームラン」は、一気に大量得点が見込める「野球最大の見せ場」と言えます。
一発逆転の可能性を秘めたホームランは、本来「貴重なもの」でした。
ところが近年、メジャーリーグベースボール(MLB)では、ホームランの数が劇的に増加しています。
下記のグラフは、MLBチームの1試合あたりの平均ホームラン数の推移を示しています。
このグラフによると約60年でホームラン平均数が0.8本から1.2本にまで増加しているのが分かります。
そして2022年には、ニューヨークヤンキースのアーロン・ジャッジ氏が、記憶破りの年間62本ものホームランを打ちました。
これほどまでにMLBのホームランが増加しているのはなぜでしょうか?
1つにはスポーツ科学の発展があるでしょう。
選手や監督・トレーナーたちは、科学的な根拠に基づいてトレーニングや食事、睡眠を改善してきており、そのことが「ホームランを打ちやすい体と技術」の構築に役立ってきたのです。
しかしそれ以外の要因として近年注目されているのが、「地球温暖化がホームラン増加に関係している」という考えです。
この考えは、単なるこじつけではありません。
物理学的には空気が温かくなればなるほど、空気が膨張するため気体密度は低くなります。
その結果、空気抵抗が小さくなり、打球はより遠くへ飛びやすくなるのです。
つまり「気温が高いと打球が飛びやすい」というのは物理学上の事実であり、アメリカ海洋大気庁が「6~8月のアメリカの平均気温は過去40年間で2℃以上も上昇している」と述べるように、地球の気温が年々上昇していることも事実です。
これらを考えると、地球温暖化とホームランの増加には関連性が見られるかもしれない、というわけです。
しかし先に述べた通りホームラン数の増加には選手のトレーニングの最適化、球場の設計、試合のシーズン状況、風向き、バットやボールなど道具の改善など、さまざまな要因が考えられます。
こうした要素を排除して気温上昇のみにフォーカスし関連性を証明する科学的な調査は、これまで行われていませんでした。
そこで研究チームは、気象やスタジアムなどの環境要因を考慮しつつ、過去数年間のMLBの10万以上の試合と、22万の打球を分析しました。
この分析には、2015年以降に設置された高速カメラによるデータ分析も含まれています。
例えば、同じ角度・速度の打球データを集め、気温の高い日と低い日の違いを比較しました。