1マイルを4分未満のアスリート(Four-minute mile runners)
今回発表された研究を説明する前に、1マイルを4分未満(Four-Minute Mile)で走った国内外のトップアスリートについて触れていきます。
前述したとおり、初めて4分の壁を破ったのは、ロジャー・バニスター氏(1929年~2018年)です。
ただ彼は、この偉業達成の2年前に開催されたヘルシンキ五輪の1500メートルでは、4位という不本意な結果に終わっていました。
もし金メダルをとっていたら、彼はここで引退していたでしょう。
しかし五輪が4位の成績で終わったことが逆に彼の闘争心に火を付け、2年後に1マイル4分切りを達成させるのです。
そんなバニスター氏ですが、陸上競技引退後も医師や研究者として世の中に貢献し、特に自律神経分野におけるパイオニアとして知られています。
1999年にアメリカのライフ誌が選定した「この1000年で最も重要な100人」では、トーマス・エジソンやガリレオ・ガリレイなどの歴史上の偉人と並んで、当時存命していた人物として唯一バニスター氏が選ばれています。
このことからも彼がいかにすごい人物なのかがわかります。
現在の1マイルの男子世界記録は、1999年にヒシャム・エルゲルージ氏(モロッコ)が達成した3分43秒13です。
エルゲルージ氏は既に引退していますが、五輪種目である1500メートルの世界記録も持っており(3分26秒00、1998年)、偉大な記録を2つ持ち続けています。
そのエルゲルージ氏の1マイル記録を破る可能性を秘めた現役選手は、東京五輪1500メートル、パリ五輪5000メートルの金メダリスト、ヤコブ・インゲブリクトセン選手(ノルウェー)です。
彼の自己記録は、1500メートルが3分26秒73、1マイルが3分43秒73と、いずれもエルゲルージ氏の持つ世界記録に迫っています。
このように、海外では五輪種目である1500メートルのトップアスリートも1マイルに本気で挑む文化があるものの、日本ではマイナーな存在です。
ちなみに、日本の現役選手のFour-Minute Mile Runnerとしては、東京五輪、パリ五輪の3000メートル障害に出場した青木涼真選手(1マイルの自己記録:3分54秒84、所属:Honda)らがいます。
日本の現役トップ選手の1マイルの記録が3分50秒台であるという事実から伺えるとおり、バニスター氏の記録から70年経っても、1マイルを4分切りで走ることが、日本の中距離走選手にとっては簡単ではないことがわかります。