5分未満の激しい運動に取り組むアスリートも長生きできる
そんな1マイルを4分未満で走るためには、ランナーは日常的に激しいトレーニングをする必要があり、レースでは心臓に極めて高い負荷がかかります。
激しい持久系の運動トレーニングが健康に良いのか、悪いのかは様々な見解があるものの、近年発表された多くの研究では、持久系アスリートは一般集団に比べると、長生きなことを報告しています。
その一方で、多くの先行研究では、5分以上、長い場合には数時間を超える競技時間の持久系アスリートを対象としており、1500メートルや1マイルのような、5分未満でレースが終わる競技に取り組むトップアスリートを対象とした検討は不十分でした。
そこで今回、ハイコウスキー教授らは、1マイルを4分未満で走った最初の200名の生存状況を一般集団と比べることで、心臓に繰り返し激しい負荷がかかる競技に取り組むトップアスリートが長生きできるのかを調べました。
調査では、1マイルを4分未満で走った人たちが記録されているデータベース(サブ4 アルファベティックレジスター)を使用し、ランナーの情報を集めました。
そして、バニスター氏を含む1マイルを4分未満で走った最初の200名の選手の生存状況を詳しく調べ上げ、一般人口との平均寿命を比較しました。
なお、最初の200名に限定した理由は、それよりも後に記録を達成した人を対象とした場合、若すぎるがために、現在まで追跡しても、長寿効果を一般人口と比べることが難しかったためです。
調査の結果、200人のうち、60人が既に亡くなっており(死亡時の平均年齢:73.6歳)、140人が生存していました(平均年齢:77.6歳)。
そういった200名のデータと、性別、年齢、出生年、記録を達成した際の年齢、国籍を考慮した上で一般集団と比較したところ、1マイル4分切りで走ったランナーは、平均寿命よりも4.74年長生きなことが分かりました。
この結果をもとに、ハイコウスキー教授らは、極端に激しい持久系運動が寿命に有害であるという見解を否定する結果になり得ると指摘しています。
そして、仮に中距離走のトップアスリートが長寿に繋がる場合、その生理学的メカニズムの一因としては、体内に取り込める酸素の単位時間当たりの最大値で、ランナーのパフォーマンスと深い関係を持つ最大酸素摂取量の高さが関与している可能性があると考察しました。
また、こういったトップアスリートは遺伝的にも恵まれている上、トレーニング面以外にも健康的なライフスタイルを確立していることも結果に影響した可能性があるとも記しています。
ちなみに、今回分析された200名をオリンピックの出場有無で生存状況を比べてみると、あまり差がなく、強いていうと、出場しなかった人の方が長寿でした。
この結果は、オリンピアンの方が恵まれると予想される経済的・金銭的支援などが彼らの寿命に対してプラスに働かない可能性を示唆するものです。
今回の研究結果は、現役時代に心臓に繰り返し激しい負荷をかけ続けたアスリートであっても、早死にするおそれがないことを示していますが、そもそもトップアスリートは長生きをするために、競技をしているわけではないでしょう。
トップアスリートにとって世界記録を塗り替えることはもちろん大きな目標ですが、陸上競技の魅力は自分の限界に挑めるという点です。
一般で陸上をやる人は、誰かと競い合うというよりも、昨日までの自分の記録を超えるために走るという人が多いでしょう。
その中で、1マイル4分という歴史的エピソードとしてもわかりやすい目標を持つ1マイルは、非常に魅力的な陸上競技です。
日本ではマイナーな存在で、非五輪種目ではありますが、陸上競技に関心がある人はこれをきっかけに1マイルに注目してみると面白いかもしれません。
そしてこの競技は、限界を限界ととらえずに目標だと考え挑んでいくことの重要性を教えてくれています。
ロジャー・バニスター効果はどんなものにでもあるはずです。あなたにとっての1マイル4分はなんでしょうか?