長期間動かない人間は「血栓が発生しにくい体」になっていた
研究チームは、HSP47の効果を人間でも確かめるため、脊髄損傷で動けなくなった人間から血液サンプルを採取しました。
このような患者は体を動かさずに一生を過ごしますが、クマと同じように血栓が作られることはあまりありません。
そして分析の結果、彼らの予想通り、ヒト患者も冬眠中のクマのようにHSP47のレベルが低いと分かりました。
追加の検証として、チームが10人の健康なボランティアに27日間の絶対安静をお願いしたところ、HSP47のレベルは時間の経過と共に低下していきました。
これらの結果は、人間が長期間固定されると、体が自然にHSP47を低下させ、血栓の発生を防ぐことを示唆しています。
ただしこの適応はすぐに起こるわけではないため、事故で体が動かなくなった直後や、長時間の飛行機移動などでは、依然として静脈血栓塞栓症のリスクが高い状態にあります。
もしこの期間に意図的にHSP47の低下を引き起こせるなら、静脈血栓塞栓症の予防に役立つかもしれません。
研究チームは、「抗凝固薬は既にいくつかのタイプが存在しますが、HSP47の研究が進むなら、副作用の少ない抗凝固薬を開発できるかもしれない」と考えています。
血栓とは本来、怪我をしたときにその傷を塞ぐために形成されるものです。そのため血液の抗凝固薬があまり強すぎると、傷ができたとき塞がらないという問題を発生させてしまいます。
生物が冬眠などの長時間同じ姿勢を維持する状況のとき、自然と作られる血液の状態を再現することで、血栓の予防に繋げられるという今回の知見は、「血栓を予防しつつ、過剰な出血に繋がらない」理想的な抗凝固薬の開発に役立つ可能性があります。
実現まで遠いとしても期待して待つ価値はあるでしょう。