1つの細胞内に「7種類のゲノム」を持つ集合生物を発見!
今から30億年前に私たち動物の祖先(古細菌)はミトコンドリアの祖先を取り込むことで、酸素呼吸能力を身に着け、真核生物と呼ばれる高度な生命へと進化しました。
そして10億年前になると一部の真核生物は追加で葉緑体の祖先を取り込むことで、光合成能力を獲得し、植物の祖先となる存在に変化します。
これによって地球上には、古くから存在する古細菌、細菌に加えて真核生物が加わり、さらに真核生物から動物と植物が派生することになりました。
この太古に起きた取り込みの痕跡は現在でも残っており、現代の生物が細胞内に持つミトコンドリアや葉緑体などは、かつて独立した生命のものであったことがゲノム情報に示されています。
それまでの地球生命は「1種類の生物には1種類のゲノム」というのが基本でしたが、真核生物の登場によって、動物は2種類(自分+ミトコンドリア)、植物は3種類(自分+ミトコンドリア+色素体)のゲノムを持つようになります。
一方、世界各地の淡水域に生息しているクリプトモナスは、大方の生命とは異なる過程を辿りました。
クリプトモナスの先祖はかつて他者を貪食する単細胞の動物プランクトンであり、細胞内には真核生物であることを示す、自身とミトコンドリアの2種類のゲノムが存在していました。
しかしクリプトモナスは進化のある段階で別の植物プランクトン(紅藻)の細胞を内部に取り込んで「植物化」を起こし、現在では運動能力を持った藻類として生活しています。
多くの植物プランクトンは10億年前に取り込んだ色素体を引き継いでいますが、クリプトモナスは同じ真核生物である植物プランクトン自体を取り込んだのです。
そのため現代のクリプトモナスの内部には、自分自身のゲノムとミトコンドリアのゲノムに加えて、取り込まれた紅藻( こうそう )のゲノムと紅藻の中で光合成を行う色素体のゲノムの4種類が含まれることになりました。
(※紅藻のゲノムの分だけ1種類多くなっています。紅藻のゲノムは動物プランクトンだったクリプトモナスの先祖が光合成能力を得るための手助けをしていると思われます。)
しかしクリプトモナスの内部では以前から、色素体の周りを泳ぐ謎の細菌や、奇妙なウイルス粒子が存在することが報告されており、なんらかの共生関係を持っている可能性が提起されていました。
つまり後から遅れて植物プランクトンを取り込んだのと同じように、クリプトモナスの内部には現在進行形の別の取り込み過程が存在する可能性があったのです。
そこで今回、ブリティッシュコロンビア大学の研究者たちはクリプトモナスに含まれるあらゆるDNA配列を読み取り、内部に何種類のゲノムがあるかを調べることにしました。
すると以前から知られていた4種類のゲノムだけでなく、追加で2種類の細菌(GとM)のゲノムと、そのうちの1種類(M)に感染していたファージウイルスの3種類を加えた、合計7種類のゲノムが存在していることが明らかになりました。
上の図はクリプトモナスに含まれる7種類ゲノムとその起源を示しています。
クリプトモナスの内部では真核生物、共生細菌、ミトコンドリア、色素体、ウイルスなど起源が異なる極めて多彩なゲノムが共存している様子がわかります。
しかし本来ならば生物にとって敵対的なウイルスが、なぜ含まれていたのでしょうか?