樹脂を塗って「暗殺スキル」を高めていた!
道具の使用は、人間にとっては当然のことながら、自身の能力を超えた問題を解決する上で有効です。
しかし霊長類や鳥類を除けば、道具を巧みに扱える生物はそう多くありません。
道具を使うということは、自然界にある物のうちに有用性を見つけ出し、それを適切に操作する必要があります。
そのため、高度な認知能力を持つ動物(とくに霊長類や鳥類)にしかできないと考えられてきたのです。
一方で、暗殺虫であるサシガメの中には以前から、体の所々に樹脂をつけている種がいることが確認されていました。
ただこれが何らかの意図を持って行っていることなのか、たまたま体に付着してしまっただけなのか分かっていませんでした。
そこで今回、マッコーリー大の自然科学者であるフェルナンド・ソレイ(Fernando Soley)氏とマリー・ハーバースタイン(Marie Herberstein)氏は、豪州に生息するゴラレドゥヴィウス(Gorareduvius)属のサシガメを対象に調査を開始。
このサシガメも体に粘着性のある樹脂を付けていることが知られています。
またその樹脂はイネ科のツキイゲ(spinifex)という植物の葉から得られたものです。
実はこのツキイゲの樹脂は、オーストラリアに最初に到着した先住民たちが狩猟用の道具や武器を製作するための接着剤として使用していた歴史があります。
両氏はサシガメもこの樹脂を狩りに利用しているのではないかと考え、西オーストラリア州イーストキンバリー地域で26匹(メス15匹、オス11匹)を捕獲しました。
同じ生息域にはツキイゲが広く自生しています。
そして実験室に持ち帰って体を調べたところ、すべてのサシガメが体の一部(とくに前脚が多かった)に樹脂を付着させていることが確認されました。
次に実験として、サシガメを1匹ごとにガラス瓶に入れて、その中にアリ1匹とイエバエ1匹を投入し、狩りの様子を観察。
その後、化粧落としで樹脂を除去した条件で同じ実験を繰り返し、獲物の捕獲率を比較しました。
最終的に26匹のサシガメで合計129回の捕食テストを行っています。
その結果、樹脂が付着していない場合、明らかに捕獲率が落ちることが確認されたのです。
樹脂が付いている条件では、付いていない場合に比べて、全体として26%も捕獲率が高くなっていました。
一方で、樹脂を失ったサシガメは、獲物を捕獲するのに樹脂ありの1.6〜3.3倍の攻撃回数を必要としていたのです。
とりわけ、空中を飛べるイエバエはサシガメの樹脂がない場合、延命率が64%も高くなっていました。
狩りの様子を詳しく観察してみても、ベトベトした樹脂があると前脚でホールドした獲物の動きが鈍くなり、逃げづらくなっています。
以上の結果から、サシガメは樹脂の特性を正しく理解して意図的に体に塗布し、明確に道具として使っていると結論されました。
チームは今後、他種のサシガメでも同じような道具使用が見られるかどうかを調べる予定です。