土星の環に「塵が積もるスピード」を計測
土星の環は400年以上前から天文家たちの心を魅了してきました。
最初の発見はガリレオ・ガリレイによる1610年の観測でしたが、当時はまだ「環」とは認識できなかったそうです。
それから19世紀に入り、土星の輪は無数の破片が寄り集まってできていることが特定されました。
今日ではその95〜98%が氷で(残りは岩石)、7つの大きな環の並びで構成されていることが分かっています。
一方で、専門家らは以前から「土星の環が土星と同じくらい古いとしたら、あまりにも綺麗すぎる」ことを指摘していました。
研究主任のサッシャ・ケンプフ(Sascha Kempf)氏は「太陽系には岩石質の小さな粒が絶え間なく飛来しており、惑星や衛星の表面を薄い塵の層として覆っている」と指摘します。
ところが、土星の環の表面には塵がごくわずかしか含まれていません。
もし45億年前から存在したのであれば、環の表面はもっと塵まみれになっているはずなのです。
そこで研究チームは、土星の環の表面に塵の層がどれくらいのスピードで蓄積されるかを調べることで、環そのものの年齢を推定する方法を思いつきました。
これをケンプフ氏は”新品のカーペットに積もるホコリ”に例えています。
「自宅に敷いた真新しいカーペットを思い浮かべてみてください。掃除をせずに放っておくと、徐々にホコリが沈澱していきます。
土星の環も同じです」
つまり、土星の環に見られる塵の層と、塵が沈殿するスピードを踏まえて、土星の環がどれくらい前から塵を蓄積し始めたのかを特定するのです。
チームは2004年から2017年にわたり、土星探査機カッシーニを使って土星の環に飛来する塵を収集し、塵がどれくらいの速さで沈殿するかを計測しました。
その結果、土星の環には30平方センチメートルあたりに毎年1グラムの塵が積もると判明。
これを鑑みると、土星の環が塵を蓄積し始めてから4億年も経過していないと推定されたのです。
よって、土星の環が存在し始めたのは4億年ほど前である可能性が浮上しました。
これは土星自体が45億年前に生まれたことを比べると、実に若い年齢です。
しかしケンプフ氏は「環のおおよその年齢は推定できたものの、そもそもどうやって形成されたのかはまだ分かっていない」と話します。
土星の環はどうやって出来たのか?
有力な説としては、飛来してきた氷の微惑星が土星の近くを通った際に、強大な引力に捕まって破壊され、その破片が土星の周りを公転しながら徐々に環を形成したというものです。
専門家らは、約38〜41億年前の太陽系において「後期重爆撃期(Late Heavy Bombardment:LHB)」と呼ばれる時期があったと考えています。
この時期には、今日のカイパーベルト(海王星の軌道の外側にある太陽系の円盤状の領域)を形成している微惑星が無数に太陽系全体に飛び交ったそうです。
以前の研究で、飛来した微惑星が太陽系惑星の近くに接近するプロセスがシミュレーションされました。
すると、木星や土星レベルの巨大惑星の十分近くを微惑星が通過した場合、巨大惑星の引力によって破壊され、その破片が惑星の周囲につかまって公転し出すことが示されたのです。
このことから、LHB期に土星の環が形成されたと考える専門家もいます。
しかし今回の研究結果を踏まえると、土星の環が4億年前に出来たのだとしたら、LHBとは時期的に矛盾すると思われます。
もしかしたらLHBとは別に、4億年ほど前に土星の近くに氷の微惑星が飛来した可能性もありますが、これは今後の課題でしょう。
またケンプフ氏は「土星の環はすでに消失しつつある」と話しています。
環を構成する氷の粒はゆっくりと土星に降り注いでおり、今から1億年後には完全に消滅する可能性が高いそうです。
土星の環の年齢が本当に4億年ほどだとしたら、その寿命はかなり短いことになります。
私たちが今、土星の環を見られるのは奇跡的なことなのかもしれません。