クモに嫌がらせをして毒に変化があるかを調査
実験では、シドニージョウゴグモ(Atrax robustus)、ハドロニュケ・ヴァリダ(Hadronyche valida)、ハドロニュケ・インフェンサ(Hadronyche infensa)、ハドロニュケ・セルべレア(Hadronyche cerberea)の生きた個体を使用。
4種のクモをストレスのかかるような3つの異なる条件下に晒しました。
1つ目は模擬攻撃で、専用の器具で空気砲を当てたり、ピンセットで怪我しない程度に突っつきます。
2つ目は同類のクモと一つの空間に閉じ込める条件で、3つ目はいつもの縄張りとは違う見知らぬ場所を探索させる条件です。
チームはクモの行動を記録しながら、レーザーモニターで心拍数を測定して、クモの身体反応の変化を追跡観察しています。
その後、それぞれのクモから毒を採取し、実験前と毒の成分がどう変わったかを質量分析で調べました。

その結果、3種のクモでは実験前後で変化はなかったのですが、唯一、ハドロニュケ・ヴァリダでは模擬攻撃で防御的になり、心拍数が高まった後で、毒に含まれる成分のバリエーションが増えていることが分かったのです。
クモの身体状態によって毒の組成が変わることを示したのは、本研究が世界で初めてとなります。
ただし一方で、変化後の毒の効力が通常時とどう違うのかはまだ調べられていません。
外部からのちょっかいに苛立って、毒の威力が増している可能性もあり得そうですが、それは追加実験の必要があるでしょう。
研究主任のリンダ・エルナンデス・デュラン(Linda Hernández Duran)氏は「他の3種に同じ変化が見られず、本種だけに見られたことは、この変化が種ごとに特異的なものと考えられる」と述べています。
つまり、他種のジョウゴグモも調べれば、気分によって毒の組成を変える種がいるかもしれないということです。
しかし、この知見は一体どんなことに役立つのでしょうか?
解毒剤や医薬品の開発に役立つかも
ジョウゴグモに限らず、クモの毒はさまざまな化学物質が複雑に混ざり合ったものです。
これは医療分野の研究者からすると、お宝の宝庫でしょう。
毒の成分や働きを詳しく解明することで、クモに咬まれたときの解毒剤はもちろん、天然農薬や医薬品などの製造に役立ちます。
デュラン氏は「ジョウゴグモは自然界で最も複雑な毒を持つ生物のひとつであり、その毒成分には新たな治療薬や殺虫剤を開発するのに役立つ物質が隠されている可能性がある」と述べています。
今回の知見を踏まえるなら、例えば、不機嫌なジョウゴグモが分泌した毒に、とある治療薬に必要な成分が豊富に含まれていれば、ちょっと怒らせた状態で毒を採取する方法が有効となるかもしれません。
その具体的なところは今後の研究テーマとなりますが、「クモの気分を変えて望みの毒成分を得る」というのは極めて斬新な方法となるでしょう。


























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