記録史上「最も熱い褐色矮星」を発見!
これまでの研究で、褐色矮星のサイズは木星質量の13倍〜80倍であることが分かっています。
天文学では一般に、木星質量の13倍より小さいものが「惑星」とみなされ、80倍より大きいものが「恒星」となります。
大きさが分類の決めてとなるのは、恒星が燃えるエネルギー源となるのが、自重によって生じる核融合であるためです。
木星の80倍のラインを超えると、自重による圧力で天体の内部に核融合が起こり、恒星に特有の持続的で高エネルギーの光を放つことが可能になります。
褐色矮星は惑星よりは高いエネルギーを放つものの、恒星に比べると遥かに弱々しく、専門家は「恒星がメラメラと燃える薪なら、褐色矮星はくすぶっている炭のようなものだ」と表現します。
褐色矮星の表面温度は高くとも2000℃前後、低いものは数百℃程度とされます。
恒星の表面温度は低いものでも4000℃前後、高いものでは1万℃を超えるため、それに比べると褐色矮星の表面はかなり低温です。
また褐色矮星は私たちの目には見えない赤外線でかすかに光る程度で、可視光線は放っていません。
そんな中、研究チームは地球から1400光年の場所に記録破りの熱さをもつ褐色矮星を発見したのです。
この褐色矮星は、2000年代初めにヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡によって発見された超高温の恒星を中心として、その周りを公転していました。
この恒星は「WD0032-317」と命名されており、太陽の約40%の質量を持ち、中心部は約3万6000℃以上の温度に達しています。
以前からこの星には周囲を公転している天体があることが示唆されていましたが、チームは今回、それが褐色矮星であることを突き止めました。
新たに見つかった褐色矮星は「WD0032-317B」と名付けられています。
調査の結果、WD0032-317Bは木星質量の75倍以上のサイズで、表面温度はなんと異例の7700℃に達していることが判明したのです。
これは太陽の表面温度(約6000℃)よりも高く、過去に記録された中で最も高温の褐色矮星です。
従来の褐色矮星ではありえない熱さですが、チームはその原因が「主星との距離」にあることを発見しました。
WD0032-317Bは超高温の主星にきわめて近い軌道を公転しており、1周するのにわずか2時間20分程しかかかっていなかったのです。
地球が太陽を1周するのに365日かかるのを考えると、その極端な短さが分かるでしょう。
つまり主星に近すぎるゆえに、普通の褐色矮星よりも遥かに表面温度が高くなっていたのです。
さらにチームはこの近さが主星と褐色矮星との間に「潮汐ロック」を起こしていることを見出しました。
潮汐ロックとは、地球に対する月の関係のように、自転と公転の周期が一致する現象を指します。
月は地球を1周する間に、自らも1回自転を行います。これにより月は地球に向かって常に同じ面を向け続けることになります。
(部屋の椅子に自分の体の正面を向けたまま、その周りを1周してみてください。椅子を1周し終えるのと同時に自分も1回転していることが分かります)
WD0032-317Bもこれと同じ状態にあり、常に主星を向いている側が7700℃に達し、その裏側が約1000〜2700℃となっていることが特定されました。
つまり記録破りの表面温度の秘密は、常に主星に炙られている面の温度であり、周囲に何もない空間に浮かんでいたなら、表面温度は2000℃前後となる正常な褐色矮星だったようです。
理由がわかれば、なんだとがっかりしてしまう人もいるかもしれません。
しかし遠い宇宙にある一見普通ではありえない数値を示す天体の理由を、観測データから論理的に説明できるのは、研究者の努力があったればこそです。
また研究者によると、この星の状態は長くは続かないだろうといいます。
というのもWD0032-317Bは普通の褐色矮星ではありえない温度にさらされているため、すでに蒸発を始めているからです。
将来的にはWD0032-317Bは自身の熱と主星の熱さによって消失してしまうかもしれません。