ヒット曲予測は失敗の連続だった
現代のコンテンツ生成のハードルが下がった社会では、溢れ出るコンテンツの中から「価値のあるもの」を見つけ出すことが、ますます困難になっています。
音楽も例外ではなく、配信される楽曲の中から良い曲を見つけ出すのは容易なことではありません。リスナーの中には、「ヒット曲だけを紹介してほしい」「自分に合う曲だけを紹介してほしい」と願う人も少なくはないでしょう。
もし「ヒット曲」や「リスナーの心に響く曲」を事前に予測できれば、私たちが良い曲に出会うハードルは格段に下がります。ヒット曲の確実な予測は、音楽業界にはもちろん、一攫千金を掴む大きな機会となり得ます。
だからこそ音楽業界は、ヒット曲を予測する試みに熱心に取り組んできたのです。
過去のヒット曲予測の手法には、リスナーへのアンケート調査や脳活動の調査などがありました。しかし、これらの手法の予測精度は一般的には低く、例えば機能的MRIを用いた研究でも、予測精度は50%を下回る結果にとどまりました。
機械学習の普及に伴い、テンポや楽器の種類など、楽曲の構成要素を抽出してヒット曲を予測する試み(ヒット・ソング・サイエンスと呼ばれる)も行われるようになりました。
例えば、2011年には23の曲の特徴を分析して曲の人気を判断する「ヒット可能性方程式(Hit Potential Equation)」が開発されましたが、この方程式を用いても、ヒット曲の予測精度は60%にとどまりました。
つまり、これまでの試みは、ほぼ失敗に終わっていたのです。
ヒット曲の予測は、なぜこれほどまでに難しいのでしょうか?
クレアモント大学院大学の研究者らは、これまでの研究が「音楽を聞いた後の感情の報告」の分析に主に依存していたことが問題だったと指摘します。
音楽はリスナーの感情的反応を引き出すものであり、その反応を事後に正確に報告することは難しいものです。なぜなら、感情的な反応は無意識のレベルで生じ、その結果を適切に報告することは困難だからです。
そこで研究チームは、後の感情報告に頼るのではなく、音楽に対する神経生理学的反応を直接測定することが予測精度の向上につながるという仮説を立てました。
そして、神経生理学的反応と機械学習を組み合わせた「ほぼ完璧にヒット曲を特定できる」手法を開発したのです。
では、彼らがヒット曲分類の精度を97%にまで引き上げた手法とは、どのようなものだったのでしょうか?