有人月面探査「アルテミス計画」の一環としてスタート
本プロジェクトは2019年に初期検討が始まり、2020〜21年にかけてJAXAと共同研究を進めてきました。
2023年現在は月面探査者「ルナクルーザー」の全体システムの概念検討、設計、要素の試作テストなど、本格的な先行研究開発に入っているのことです。
この取り組みは元々、NASA(アメリカ航空宇宙局)が進めている有人月面探査「アルテミス計画」の一環としてスタートしました。
その月面探査に用いるマシン開発で期待されているのが、世界の自動車産業のトップを走るトヨタの開発技術だったのです。
こうして始まったルナクルーザーの研究開発は、トヨタが長年培ってきた技術をいかんなく発揮できる機会となっています。
ルナクルーザーに使用する技術
まずルナクルーザーは全長6メートル、幅5.2メートル、高さ3.8メートルと、マイクロバス2台分のサイズを想定しています。
基本的には2人乗り(最大4人)で、内部に13平方メートル(4畳半程度)の居住空間を備え、車内で寝泊まりしながら月面を探査するという。
動力源としては、月面にあるとされる水資源を用いた「再生型燃料電池(Regenerative Fuel Cell:RFC)」を採用します。
具体的には、太陽光発電による水電解で水素と酸素を作り出し、それを燃料として自給するシステムです。
月面では昼と夜が約半月(14日間)ごとに入れ替わるため、昼の間に太陽光を使って大容量のエネルギーを生産しておき、夜間にそこで蓄えた電力を供給します。
航続距離は100%の充電で約1000キロに達するとのこと。
RFCにより、燃料補給のためにわざわざ拠点へと戻らなくて済むので、遠方への探査が可能になるでしょう。
また月面は当然ながら、舗装が一切されていないデコボコ道です。
クレーターや岩石などの障害物、急な斜面があり、地表は細かな砂のレゴリスに覆われています。
そこで開発チームは、故障やパンク、スリップを防ぐための金属タイヤや、車輪を独立して操作するためのインホイールモーター(車輪ごとにモーターを配置して直接駆動させる技術)の組み込みを検討しています。
それからUX(ユーザーエクスペリエンス)も重要な課題の一つです。
UXでは操縦者の居住、視認、操作、快適性などの向上を目指します。
ルナクルーザーでの探査は2人のクルーが4畳半のスペースの中で約1カ月を過ごすことを想定しています。
しかし月面には地球のような青空や森林、きらめく海や夕焼けなどの心安らぐ自然風景が皆無です。
ただただモノクロの地面が延々と続きます。
それが精神への負荷をかけ、クルーの判断力や意欲を低下させると、操作ミスで危険な事故を起こしかねません。
そこでクルーたちがいかに快適に作業を進められるかが鍵となります。
ここでは車内を広く感じられる空間設計や、クルーのストレスを和らげる娯楽設備などが必要となるでしょう。
2029年の打ち上げを予定!
さらにルナクルーザーの開発に用いる技術は地球での生活にも還元できるとチームは考えています。
例えば、水と太陽だけで電力を作り出すRFCは離島や被災地での発電用に応用できますし、オフロードでの走行技術も災害現場の悪路や危険な地域への物資輸送に使えるという。
チームは今後、2023年度中にルナクルーザーのテスト車両を試作し、月面環境を模した実験スペースでの走行テストを行う予定です。
2027年までには本体の開発を実施し、2029年に月面への打ち上げを計画しています。
”世界の”ではなく、”宇宙のトヨタ”になる日はそう遠くないかもしれません。