地面の下で「花」を咲かせ「実」を結ぶ新種のヤシを発見!
花や実つける植物にとって、受粉と種の拡散は生存する上で最も重要な課題です。
そのため多くの植物は受粉を促進するためにミツバチや蝶に見つかりやすいようによく目立つ花をつけます。
また美味しい実を成らせる植物たちは動物たちに食べてもらうことで、種を遠くに移動させ生息域を拡大することが可能になります。
そのため多くの植物にとって、花や実はできるだけ外部に露出していることが望ましくなっています。
では地下で花を咲かせたり地下で実を結ぶ植物が全くいないのか?
というと、実はそうではありません。
これまでの研究により、地下での開花や地下での結実の「どちらか」を採用する植物たちが少なくとも171種ほど知られています。
たとえばピーナッツ(落花生)も、花は地上で咲きますが、実は地下に存在する植物の1つです。
落花生では受精した花が地下に埋まり、そこで実となるピーナッツが育ちます。
地下で実を結ぶ植物のほとんどは乾燥地域を起源としており、暑さや草食動物から保護するために地下で実を結ぶように進化したと考えられます。
しかし花が咲くのも実を結ぶのも地下という植物は極めて珍しく、35万種を超えるとされる種子植物のなかで、これまでラン科の一種であるリザンテラ属など数例しか報告されていません。
ですが今回の研究により、花も実も地下に存在するヤシ科の植物が新たに発見され「ピナンガ・サブテラネア」と命名されました。
こう言うと、新種は人目に付きにくい場所にひっそりと存在したように思えますが、実際はむしろ逆でした。
実はピナンガ・サブテラネアは現地であるボルネオ島の住民の間ではよく知られている植物で、甘い味がするとして人気の果実でした。
分布域もかなり広く、ボルネオ島西部の熱帯雨林全域でみられる比較的「ありふれた」種でした。
にもかかわらず発見が遅れた原因は、その見た目にありました。
周囲に生えているヤシは通常、成長して大きくなると、花と実を外部につけるようになります。
一方、ピナンガ・サブテラネアは他のヤシほど成長せず、いつになっても花や実がついているようには見えません。
そのため研究者たちはこれまで、ピナンガ・サブテラネアを他のヤシの苗木だと考えており、新種だと思っていなかったのです。
しかしある日、研究者たちはイノシシの群れがピナンガ・サブテラネアの生えている周囲を掘り起こし、鮮やかな赤い色の果実を食べているのに偶然発見し、新種であったことに気が付きました。
ですがそうなると気になるのが、なぜピナンガ・サブテラネア花も実も地下に移すような進化をしたかです。
研究者たちは、地下の実についてはブタの存在が重要な役割を果たしていると述べています。
発見のキッカケのように、野生のブタたちはピナンガ・サブテラネアの実を地下から掘り起こして食べています。
つまり動物に食べられて種を拡散させる目的は、土を掘るブタがいれば実が地下でも果たせます。
実際、研究者たちがブタの糞からピナンガ・サブテラネアの種を回収し育てたところ、ちゃんと発芽して成長できることが示されました。
ただ、花が地下にある理由については、発見直後である現状では、あまり理解が進んでいません。
研究者たちは地下に住む小さな虫や微生物が受粉を助けてくれる可能性もあると述べています。
研究者たちは今後ピナンガ・サブテラネアを持続的に観察し、地下の花が受粉する瞬間を確かめたいと述べています。