”幸せホルモン”が増えると「パレイドリア」が起きやすくなる?
これまでの研究で、ヒトに”幸せホルモン”として知られる「オキシトシン」を投与すると、環境中の顔信号に対する感受性が高まり、表情や感情を読み取る能力が上がることが示されています。
これを受けて研究チームは、体内のオキシトシン濃度が高まると、物の中に顔パターンを見出すパレイドリアが起こりやすくなるのではないかと仮説を立てました。
体内のオキシトシン濃度は一生を通じて変化しますが、特に出産後の女性においてピークに達することが知られています。
これはオキシトシンにストレスを軽減して気分を高め、育児や授乳などの母親の行動を促す効果があるためです。
そこでチームは、出産後の女性を対象にして、本当にパレイドリアが生じやすくなるかどうか実験することにしました。
出産後の女性はパレイドリアを起こしやすくなっていた
実験では、過去12カ月以内に出産した女性79人、妊娠中の女性84人、妊娠を経験していない女性216人の計379人に参加者として協力してもらいました。
参加者には、実際の人の顔画像・物の中に顔パターンが錯視できる画像・顔パターンのない無生物の画像を含む数百枚の画像を提示します。
その後、参加者は画像の中に顔がどのくらい明瞭に見えたかを、1(まったく見えない)〜10(はっきり見える)の10段階で評価しました。
その結果、出産後の女性は、妊娠中の女性や妊娠していない一般女性に比べて、顔のパレイドリアが有意に起こりやすくなっていることが判明したのです。
顔の錯視が起こりやすい画像では多くの女性がパレイドリアを経験していましたが、これと別に、顔パターンの錯視を起こしづらいような画像でも、出産後の女性は他の女性よりパレイドリアを経験する割合が高くなっていたといいます。
これまでは、個人におけるパレイドリアの起こりやすさが、人生のさまざまな段階で変動することは知られていませんでした。
しかし今回の実験結果は、パレイドリアへの感受性が女性においては母親になる初期の段階で有意に高まることを初めて示したものです。
研究者らはその生物学的な理由として、出産後に顔信号への感受性を高めることで赤ちゃんの表情や感情を読み取りやすくし、母子の絆や関係を深くするのに役立っているのではないかと考えています。
赤ちゃんの表情を注意深く読み取ることは、まだ言葉を話せない乳児の健康状態を予測する上でも非常に重要です。
また研究主任のジェシカ・トーバート(Jessica Taubert)氏は、この結果について、個人のパレイドリアへの感受性が特定のホルモン(オキシトシン)レベルの増減によって変化する可能性があることを示唆した貴重な成果でもあると述べました。
その一方で、本研究では女性のオキシトシン濃度を直接測定したわけではないため、結果はまだ予備的なものにすぎないとも話しています。
実験に参加した産後の女性は、これまでの研究結果に則って、他の女性グループよりも体内のオキシトシン濃度が高いと仮定されていただけでした。
したがって今後の研究で、顔信号の認識におけるオキシトシン濃度の正確な役割と、その影響が性別や年齢によってどのように異なるかを検証する必要があるといいます。