雲を作るエアロゾルの謎にせまる
先程も説明しましたが、エアロゾルにはさまざまな種類があります。
人為起源エアロゾルは、石炭や石油を燃やしたときに生じる二酸化硫黄、自然起源エアロゾルは黄砂、火山から発生する粒子、スギ花粉、植物から発生する炭化水素(テルペン)などです。
テルペンとは、樹木をはじめとした植物が干ばつなどのストレスにさらされるときに放出する物質です。
テルペンは松の木やオレンジなどから採取できる精油から得られます。
揮発性が高く香りがあるため、アロマオイルや芳香剤としてよく使用されています。
森林に足を踏み入れると「森の香り」を楽しめますが、これも大気中にテルペンがあることが要因です。
このテルペンを核としても、雲は形成されます。
今後雲形成におけるテルペンの重要度は上がる
雲形成において、今後この植物由来のテルペンが重要になるといわれています。
現在、多くの国が石油や石炭などの化石燃料の使用を控え二酸化炭素の排出を減らそうとしています。
大気科学者であるルブナ・ダダ氏によると、「環境規制の強化により人為起源エアロゾルである二酸化硫黄が大幅に減り、今後も減少し続ける」と予測しています。
同氏は、「一方、気温上昇により植物が干ばつにさらされ、テルペンの濃度が上がっている」とも話しています。
つまり、二酸化硫黄の濃度は低くなるけれども、テルペンの濃度は高くなっていく状況です。
そのため、今後雲の形成予測を正しく行い、気象予測の精度を上げるためには、テルペンがどのように雲形成に寄与しているのか分析する重要性が高まっているのです。
樹木などの植物の存在が、雲形成の要因として大きいものになるでしょう。
ただ、雲形成に関するエアロゾルの研究は難しい
樹木から発生するテルペンのエアロゾルを研究することが、今後の気象予測に大きく影響することが分かりました。
しかし、エアロゾルの研究は一筋縄にはいきません。
エアロゾルは非常に小さな物質のため、大気にどのエアロゾルが存在するのか調べるためには基本的に電子顕微鏡などの機器が必要となります。
そのうえ、1つの雲の粒子に複数の種類のエアロゾルが存在する場合もあり、研究を進めることが難しい分野であります。
テルペンに関しても同じで、種類によっては大気中の濃度が十分ではなく不明瞭な部分が多くある状況です。
PSIの研究によりテルペンの研究が進んでいる
エアロゾル研究には難しい部分が多いのですが、クラウドチャンバーという装置により、テルペンの研究は進んでいます。
クラウドチャンバーとは、粒子の動きを観察するための装置です。
テルペン研究に使われたものとは異なるクラウドチャンバーですが、下の動画のように粒子がどのように動いているのか観察できます。
PSIの研究者らは、高精度に観察できるクラウドチャンバーを活用し、テルペンの中で「セスキテルペン」というものがより多くの雲を形成できる物質だと発見しました。
セスキテルペンは、モクレン、ミズキ、ミカンなどの樹木に多く含まれるため、これらの樹木が雲形成に大きく関わるのではないかと予測できます。
今後の課題
雲形成において、今後樹木の存在が大きくなることが判明しました。
しかし、雲の形成状況を正しく予測し、さらに気象予測の精度を改善していくためには、エアロゾルがどのように影響していくかなど、より進んだ大気分析の研究が必要です。
雲のでき方の予測は天気予報に大きく関わります。
雲形成に重要なエアロゾルの研究が進めば、今後100%当たる天気予報が可能になるかもしれませんね。