ニューロンの起源は神経ペプチドの分泌細胞だった

なぜ単純な平板動物に神経伝達物質(神経ペプチド)を放出する細胞があるのか?
謎を確かめるため、研究者たちは、神経ペプチドを放出している「ペプチド作動性細胞」が他の細胞とどのように相互作用をしているかを徹底的に調べました。
すると驚くべきことに、ペプチド作動性細胞から放出された神経ペプチドが特定の細胞にキャッチされると、まるでニューロンからの刺激を受けた筋肉のように、平板動物の運動パターンが変化することがわかりました。
またペプチド作動性細胞は人間のニューロンと極めて類似性が高く、ニューロン同士の連結部にあるシナプス前終末と呼ばれる部分を構築するタンパク質を持っていました。
通常のニューロンは「シナプス前終末」から神経ペプチドなどを放出して、細胞間をまたいで信号を伝達します。

平板動物のペプチド作動性細胞も同様に、神経ペプチドを分泌することで化学信号を使った細胞間の情報ネットワークを形成していたのです。
一方で、ペプチド作動性細胞は電気信号を伝達する機能がなく、ニューロンに存在するシナプス後半部分の受信端が存在しないことが判明しました。
そのためペプチド作動性細胞は真の意味でのニューロンとは言えません。
しかし研究者たちは、ペプチド作動性細胞とニューロンの類似性は極めて高く、ペプチド作動性細胞を使った神経系が、ニューロンを使った神経系の前に存在していた可能性あると述べています。
(※この電気を使わず化学物質のみで情報伝達を行う仕組みは「化学脳仮説」と呼ばれています)
人間や昆虫など幅広い動物が使う現代的なニューロンが登場したのは6億5000万年前と考えられています。
もしかしたら平板動物が誕生した8億年前から現代的なニューロンが誕生する6億5000万年前までの1億5000万年間は、動物たちの脳で行われる情報伝達は、全てペプチド作動性細胞に依存した化学信号で行われていたのかもしれません。
また今回の研究により、遠く離れていると思われていた人間と平板動物が、細胞レベルでは類似点があることが示されました。
研究者たちは、単純な平板動物にニューロンの起源があるのならば、平板動物は動物の神経系の成り立ちを知る上で最良のモデルとなると述べています。
というのも、現代的なニューロンのひな型となるペプチド作動性細胞を用いた神経系や脳がどのように形成されたかを知ることができれば、神経とは何か、あるいは脳とは何かを解明する手掛かりになるからです。
平板動物は人間よりも遥かに単純な生物ですが、情報伝達システムは見た目によらず、かなり洗練されているのかもしれません。