外国語の学習は色の概念を変えてしまう
アマゾンの僻地に住むチネマ族は色を現わすときに、主に「黒・白・赤」の3つの言葉だけを使用します。
ただ一部地域では、黄色や茶色などさまざまな色を内包した単語があり、「シャンディ」と「ユシュヌス」という2つの単語は、青または緑の両方に対して曖昧に適用される場合があります。
ただこれらの言葉は全員が使用しているわけではありません。
一方、近代化の影響で、現在のチネマ族の中には元々のチネマ語に加えて、第二外国語であるスペイン語を話せる人々が存在します。
そこでMITの研究者たちは、チネマ語だけを話す人(モノリンガル)と、チネマ語とスペイン語の両方を話す人(バイリンガル)の両方に対して異なる84種類の色のついたのチップを見せて、その色を説明するように依頼しました。
また2つめの実験ではチップ全体を見せて、チップをグループわけするように頼みました。
すると、この課題をスペイン語で行うようにお願いした場合、バイリンガルのチネマ人はスペイン語の分類に従って実行されました。
一方、タスクを母国語で行うようにお願いした場合でもモノリンガルの人々に比べて色の名付けについて遥かに正確になっていました。
中でも特に興味深かったのは、青と緑の区別がスペイン語を学んだチネマ族のみに現れることでした。
先にも述べた通りチネマ語では「シャンディ」と「ユシュヌス」という2つの単語が、青または緑の両方に対して曖昧に適用されています。しかしスペイン語を学んだチネマ族はどういうわけか青を現わす場合のみ「ユシュヌス」、緑を現わす場合のみ「シャンディ」を使い始めたのです。
この変化はスペイン語をインポートすることなく、チネマ語の色の概念が変化したことを示しています。
以上の結果は、第二外国語であるスペイン語を学ぶことで、チネマ族の人々の色彩認識に大きな変化が起きたことを示唆します。
研究者たちは、「シャンディ」と「ユシュヌス」の変化した使用法がチネマ族の間に広がれば、チネマ語しか話さないひとの間でもやがて青と緑を分類し始める可能性があると述べています。
つまり外国語との接触が、外国語を学んでいない人々の色認識についても影響を及ぼす可能性があるのです。
もしかしたら私たちの話す日本語も、外国語との接触によって、目に見えない概念の変化を無数に起こしているのかもしれません。
研究者たちは今後、時間など色以外の概念についても、チネマ語話者にどのように拡散していくかを調べていきたいと述べています。