人工染色体をまとめて50%以上にする
人工染色体をまとめるために研究者たちがとった方法は、交配でした。
酵母は単細胞生物ではありますが、しばしば交配によってお互いの遺伝子を混ぜ合わせた次世代を作ることが知られています。
そのため人工染色体を1本ずつもつ家系を上手く交配することで、人工染色体を2本持つ新たな家系を作ることが可能になります。
たとえば、2番が人工染色体の酵母と5番が人工染色体の酵母を掛け合わせ、結果として生じる子孫の中で2番と5番の両方が人工染色体であるものだけを選びます。
人工染色体には人工物であることを示す複数の色素マーカーが組み込まれているため、研究者たちは視覚的に選別することが可能です。
研究ではこの過程を繰り返し、人工染色体の割合を高めていきました。
ただ交配は単純作業とは程遠い困難なものでした。
人工染色体を組合わせるたびに「デバッグ」が必要になったからです。
作業の基本は、2家系の酵母を組合わせ、人工合成染色体を2倍にするというもので、一見すると単純に思えます。
しかし実際は、2本以上の人工合成染色体が同じ細胞内にある場合、バグが発生し、細胞の生存や増殖能力に問題が発生することがありました。
原因は、研究者たちが加えた変更でした。
研究者たちは既存の知識をもとに、生命活動や増殖能力に悪影響が及ばない範囲で改定を加えてきました。
しかし人工DNAの割合を増やしていくと、変更しても問題ないと思われていた部分が、悪影響を及ぼしていることが判明したからです。
また厄介なことに、人工染色体の数が増えるにつれて、デバックの問題はより複雑になっていきました。
しかし研究者たちは地道なバグとりを続け、最終的に全ゲノムの50%以上が人工DNAで構成される、合成酵母を作り出すことに成功します。
新たに創造された酵母は、天然の酵母と同じ速さで増殖することが可能であり、人工DNAが酵母の命の営みを支えられることが示されました。
研究者たちは「生物学は今後、生命を人工的に構築することで、生命を理解する形式に変化していくだろう」と述べています。
一方研究者たちは、人工生命体が環境に逃げ出す危険性についての対策も進めているとのこと。
今回の研究でも、天然の生命との生存競争に勝てないように、生命機能の一部にハンデを負わせる方法が導入されています。
また人工酵母を作成するために開発された技術は現在、マウスのゲノムを書き換えて、人間に近いマウス系統を作るために使用されています。
こうした試みは薬剤などの人間に対する影響を、マウスからでも正確に確認しやすくするために役立ちます。
(※マウスのゲノムは酵母の200倍もあるため、全てを人工DNAに置き換えるには、多くの時間がかかるでしょう)
ただもしゼロから生命のDNAを製造するボトムアップ式の技術が完成すれば、さまざまな生物の利点を取り込んだ、優れた農産物や畜産動物が作られるでしょう。