水が熱エネルギーの計算値より多く蒸発

蒸発量が理論値と大きく異なる現象はヒドロゲルの中の水分で観察されました。
ヒドロゲルとは、水を媒体としたゲル状の物質を指す言葉です。
具体的には水を使った寒天やゼリーがヒドロゲルにあたります。
ヒドロゲルにおける水の蒸発量を測定すると、温度を元に算出した計算値より大きくなる事例が頻発していました。
その蒸発量の違いは大きいものでは計算値の3倍以上となったものもあります。
そのため、多くの研究者たちは「水の蒸発を促すものが熱以外にもあるのではないか」と疑いました。
そんな中、MITの研究チームは「光が蒸発を引き起こす」と推察し、実際にヒドロゲルに光を当てて蒸発するか実験することにしたのです。
光の色によって蒸発量が変化

実験では、水面に異なる色の光を順番に当て、蒸発速度を測定しました。
この際、ライトの熱が伝わらないよう、ヒドロゲルは光のみが届くシールドで遮断されています。
実験の結果、蒸発量は光の色によって変化し、緑色の光(520nmの波長)でピークとなりました。
温度の関与がない状態で、光の色によって結果が変わったというこの事実は、光そのものが蒸発に関わっていることを示しています。
研究チームは、実験で観察された現象について「光子が実際に水分子を水面から弾き出しているのでは?」と考え、このプロセスを光分子効果と名付けました。
単純に考えると光のエネルギーは青色に向かうほど高くなるため、水分子を弾き出す効果は青い光ほど強くなりそうな気がしますが、緑色の光でピークになるのはなぜでしょう?
光が物体に当たった場合の反応には、物質の分子構造に関与する場合と、単純に熱エネルギーに変換されて物質を温めるだけの場合に分かれます。
これは物質を構成する分子のサイズと光の波長の関係で決定されます。
今回の報告を見る限り、緑色の光がちょうど水分子にとって「適切な波長」であり、蒸発を最大限に促進しているのだと考えられます。
では光に誘起されて蒸発が進むという光分子効果が発見されたことで、世界はどのように変わっていくのでしょうか?