4秒の睡眠を1万回も繰り返していた!
研究チームは2019年12月、南極海に浮かぶキングジョージ島に赴き、そこに暮らす2700以上のヒゲペンギンのつがいから、卵を育てている14羽を選定。
そのペンギンたちに脳波(EEG)の測定装置や位置を追跡するGPSを取り付け、さらにビデオモニタリングも駆使して、2週間にわたる睡眠の実態調査を行いました。
その結果、ヒゲペンギンたちは数時間のまとまった睡眠を取るのではなく、平均3.91秒の”うたた寝”を1日に1万回以上も繰り返していることが判明したのです。
こうした数分の1秒〜30秒以内の非常に短い睡眠のことを「マイクロスリープ」と呼びます。
データ分析によると、ヒゲペンギンのマイクロスリープの72%は10秒未満であり、一時間あたり約600回の”うたた寝”をしていました。
それを1日で総合計すると約11時間の睡眠となっています。
面白いことに、彼らは立ったままでも横になったままでもマイクロスリープをしていました。
研究者いわく「わずか4秒の睡眠を何千回も繰り返す事例は、他の動物だけでなく、同じペンギンの間でさえ前例がない」といいます。
こちらはヒゲペンギンが「目を閉じる」タイミングと、それに対応して見られる睡眠状態の脳波の変化を示した映像です。
主に目を閉じているときに、脳が睡眠状態に入っていることが分かります。
(※ ペンギンたちの鳴き声が入っています。音量にご注意ください)
うたた寝を妨げるのは海鳥より仲間の騒がしさ?
一方で興味深いことに、巣がある場所によってヒゲペンギンの睡眠の深さや長さが変わっていました。
具体的には、巣が密集している中央部のペンギンよりも、周辺部にいるペンギンの方がマイクロスリープの数も時間も多くなっていたのです。
しかし天敵の海鳥に卵を狙われやすいのは一般に、仲間の巣から離れている周辺部の方と考えられています。
ところが実際には周辺部にいるペンギンの方がより多く眠れていました。
このことは海鳥のような天敵よりも、巣の資材を盗もうとするペンギンが近くにいることの方が強い警戒心が必要であることを示唆するものです。
またコロニーの中央部は、ペンギンたちが密集していることで騒音や物理的な接触も多いため、眠りにくい状況にあると考えられます。
研究者らは、ヒゲペンギンが睡眠の回復効果を得ているかどうかを直接測定したわけではありませんが、その後、卵のふ化にちゃんと成功していたり、これほどコロニーが繁殖している事実から、”うたた寝の繰り返し”によって睡眠のベネフィット(利益)が十分に得られていると考えています。
しかし、こうした断続的な睡眠はヒトが同じことをすると、認知機能に悪影響を及ぼし、アルツハイマー病のような神経変性疾患を誘発する可能性が高まるという。
この独特の睡眠方法はヒゲペンギンだからこそ成せる技のようです。
ただ彼らも周りに天敵やライバルがいないのなら、ゆっくり休息の時間を取りたいのかもしれませんね。