心理的な距離を取ることで意思決定を先延ばしにしなくなる
後続の実験では、同様の心理的な距離を操作する手続きを踏み、比較が難しい場合と比較が簡単な場合で、どちらの製品が良いかを選んでもらっています。どちらが良いのか選べない場合は、選択を保留することもできます。
比較が難しい製品の例としては、マウス付きPCと容量が大きいPCのように比較できる特性が揃っておらず、比較が簡単な場合は製品の値段が7万4000円と3万1000円のように比較できる特性が揃っていました。
実験の結果、難しい選択をするときに、抽象的な思考を促進された人は、そうでない人と比較して、選択することが簡単に感じ、選択を先延ばしにしない傾向が確認されました。
さらにこの研究で面白い点が、問題の回答時に参加者の姿勢を変えるよう指示し、問題(画面)との物理的な距離も操作して、同様の現象が生じるかの検証を行ったというところです。
参加者は画面から顔を遠ざける人と、画面に顔を近づける人の、2つのグループに分けられ、前項で紹介した難しい発音の難易度を評価する課題と、悩ましい選択をする課題を行ってもらっています。
実験の結果、抽象的な思考で問題と心理的距離を空けた人と同様に、画面から顔を遠ざけ物理的に問題と距離を空けた人は、画面に顔を近づけた人と比較して、取り組む課題をより簡単に感じ、選択を先延ばしないことが分かりました。
この結果は、問題との物理的な距離を取ることが、心理的な距離を取ることと同様の効果を生むことを示唆していると言えるでしょう。
研究チームは「PCでの作業中、画面に顔を近づけたり、離したりするだけで、問題の難しさの感じ方が変わる可能性がある」と述べています。
もしかすると、ミーティング時に議論の中心となっている場所から離れて座ることで、議論を俯瞰的に把握し、話し合いが行き詰ったときに、的確な意見を述べることができるかもしれません。
困難な問題に直面したときには、つい前のめりになって作業をしがちですが、この姿勢では不安が募り、余裕を失いかねません。
難しい問題を解くとき、他にも悩ましい選択肢から意思決定をしなければならないときは、背筋を伸ばし頭を少し後ろに引いて物理的な距離を取りましょう。
そうすることで問題が簡単に感じられ、よりよい発想や選択ができるかもしれません。