苦言を呈す人も
そのような状況に教育心理学者の青木誠四郎は懸念を抱いており、「中等学校入学者選抜の方法についての私見」と題した論文を発表しました。
論文では、「学歴によって就職や出世が決まる風潮と親の教育熱によって学歴競争が激化している」と指摘しています。
また、青木は論文の中で入学試験への取り組み方について、「入試は死ぬほど努力すべき」といった風潮があり、健康に対する懸念が生じていると報告しているのです。
さらには青木は中等学校受験準備の過熱化に対する解決策として、中等学校の収容力を高めることを提案していました。
実際に青木の主張したように戦前を通して中学校の新設は続いており、中学校進学者は増加していました。
同時に、学歴偏重志向や就職難といった社会的背景が親たちの強い進学志向につながっていたと指摘し、これらの社会問題にも焦点を当てていたのです。
当時の上流層の間では無理やり子どもを進学させることがしばしば起こっており、青木は「ある公務員の子どもは非常に成績が悪かったものの、無理をして何とか中学校に入れたが、学校内で落ちこぼれたので、グレて盗みを働くようになった」という例を紹介しています。
一方受験を回避して人生を成功させた例として「ある陸軍軍人の三男は成績が悪かったので、小学校を卒業後に商家へ奉公に出したが、三男は立派に成長し、大学を卒業した長男や次男よりもいい生活をしている」という話しを紹介しており、親が子供の能力や適性を考慮して進学を選ぶことが大切であると主張しています。
学歴がその後の人生に影響するというのは戦前であっても変わらない事実であり、それ故多くの親は子どもの人生の選択肢を増やすために受験に必死になっているケースがあったようです。
これは現代とまったく変わらない状況ですが、歴史的な事実として振り返ると、当時の教育熱の高まりや学歴偏重志向に対する人々の懸念は現代の親の姿勢に対する警告として受け取る事ができます。
現在でも子どもの受験に力を注いでいる家庭は多く、中には青木が指摘したように受験勉強に必死になり過ぎて健康を害する子どもや、学業不振に悩む子どもがいます。
大切なのはいつの時代も子どものことを良く見て、その子の適正を見抜いてあげることでしょう。受験はその選択肢の1つに過ぎないのです。