星の死によって原子核に中性子が詰め込まれる
燃料を使い果たした星の最後は、星のサイズによって大きく異なります。
太陽の0.46~8倍程度の星の場合は、燃料を全て使い果たす過程でどんどん巨大化しながら冷えていき、やがてガスが周囲に飛び散って、最後には真ん中に核の部分だけが残った「白色矮星」になると考えられています。
一方、太陽の8~10倍の質量の恒星では超新星爆発が発生し、その中心部に中性子星と呼ばれる小さな星が生成されます。
もっと重かった場合は少し特殊で、超新星爆発は起こすものの中心部はブラックホールになってしまいます。
今回特に重要となるのは、白色矮星でもブラックホールでもなく中性子星の方です。
中性子星はその名の通り、ほとんどが中性子で構成されている超高密度の星であり、スプーン1杯(15ml)で巨大な氷河(75億トン)に匹敵する質量を持ちます。
これまでの研究によって、銀河系に存在する星系の多くは複数の恒星によって構成される連星系であることが知られており、中性子星同士が衝突する現象も報告されています。
重元素の生成では、重い星々の死に際に起こる超新星爆発と共に、この中性子星の衝突が重要になると考えられています。
先にも述べたように、どんなに巨大な星の圧力でも、鉄までしか作ることはできません。
しかし中性子星同士の衝突や超新星爆発はより巨大なエネルギーを生成することが可能であり、鉄よりもさらに重たい元素を一瞬で作ることが可能になります。
このプロセスはラピッド(早い)のRをとって「r過程」と呼ばれています。
何やら難しそうな用語ですが、原理は極めて簡単です。
中性子星同士の衝突や超新星爆発では膨大な数の中性子を放出する極端な環境を作り出します。
このような環境に原子核が存在すると、原子核内部に中性子が無理矢理詰め込まれる現象「中性子捕獲」が発生するのです。
原子核を家に例えるなら、周りに存在する高エネルギーかつ高密度の中性子がドアを突き破って家の内部に侵入してくる現象と言えるでしょう。
原子核にとっては迷惑な話であり、高エネルギーの中性子を詰め込まれた原子核は不安定化してしまいます。
この不安定な状況を打破するために原子核は主に3つの方法を使うことが知られています。
1つ目は多すぎる中性子を陽子に変えて、原子核内の陽子と中性子のバランスを保つ方法(ベータ崩壊)です。
たとえるなら、家の中に入り込んできた他人(中性子)を家族(陽子)として迎え入れて、家庭の混乱を収拾する方法と言えるでしょう。
この方法を採用すると、原子核内部で陽子の数が増え、周期表の分類において別のマスに移動することになります。
周期表の並びを支配する原子番号は「陽子の数」と同じになるからです。
2つ目の方法は、増えすぎた中性子を放出するよりシンプルなものです。
再び家で例えるならば、入り込んできた他人を家の外に蹴り出す方法と言えるでしょう。
3つめの方法は、分裂です。
増えすぎた住人(中性子)のために新しい家を用意して、そこに新たに陽子と中性子を割り振る方法となります。
ただ実際には、この3つの方法が同時に行われる場合があるため、最終的な質量数(陽子と中性子の合計数)は3つの方法のバランスによって決定されることになります。
そしてこれらプロセスでは、恒星の核融合と違って「鉄まで」のような制限はないため、金やプラチナ、ウランといった重元素を作り出すことが可能になります。
中性子星同士の衝突や超新星爆発の現場は、錬金術師たちが夢見てきた、卑金属を金に変えるという奇跡が実現している場だったのです。
中性子が詰め込まれる量が多ければ多いほど、安定化後に出現する原子質量も大きくなるため、最大値が大きいほどより豊富な重元素の母体となり得ます。
しかし、宇宙の錬金術(r過程)についてはまだ不明な点が多く、最大でどれほどの重さの原子が作られるのかといった基本的なこともわかっていませんでした。
そこで今回、ミシガン大学の研究者たちは、この謎を解明すべく新たな手法で星々を観察することにしました。