チンパンジーはイルカや人間と同じく長期記憶を持っている
人間は長期記憶を持っており、何十年以上も会っていない友人の顔を覚えていることが可能です。
最近では、このような長期記憶を持っているのは人間だけではないと徐々に分かってきました。
例えば、アメリカのシカゴ大学(University of Chicago)に所属するジェイソン・ブルック氏は、2013年の研究で、ハンドウイルカ(学名:Tursiops truncatus)は「名前」として使っている互いの鳴き声を20年以上も記憶していると報告しています。
イルカといえば高い知能を持つ哺乳類としてよく知られていますが、チンパンジーもまた「賢い」ことで有名です。
そう考えると、チンパンジーたちがイルカや人間のような長期記憶を持っていたとしても不思議ではありません。
そこでカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)のルイス氏ら研究チームは、チンパンジーたちの記憶力をテストすることにしました。
実験には、チンパンジー属に分類されるチンパンジー(学名:Pan troglodytes)15頭とボノボ(学名:Pan paniscus)12頭が参加しました。
彼らはイギリス、日本、ベルギーの動物園で生活しています。
実験では、それら参加したチンパンジーとボノボに、同類の写真を3秒間だけ見せ、視線追跡(アイトラッキング)カメラで彼らの視線を記録しました。
提示したある写真には、昔のグループメンバー(1年以上一緒に暮らしていたチンパンジーまたはボノボ)が写っており、また別の写真には、まったく知らないチンパンジーまたはボノボが写っていました。
つまり、写真には「古い友人」「しばらく会っていない親族」もしくは、「赤の他人」が写っていたのです。
その結果、参加したチンパンジーとボノボすべてが、昔のグループメンバーの写真を、見知らぬ同類の写真と比べて、平均4分の1秒、つまり11~14%長く見つめました。
彼らは昔の仲間とそうでない同類をはっきりと見分けていたのです。
しかも、写真の中には5年も10年も会っていない仲間もいましたが、それでも彼らはしっかりと記憶していたようです。
顕著な例としては、ルイーズという名前のボノボは、姉妹のロレッタや甥のエリンに26年以上会っていませんでしたが、それでも彼女らのことを覚えており、写真を注視しました。
また研究チームによると、実験に参加したチンパンジーとボノボたちは、以前に良好な関係を築いていた相手ほど、その顔を長く見つめる傾向があったようです。
今回の結果は、賢い動物であるチンパンジーたちが、人間と同じく、古い友人やしばらく会っていない親族のことを覚えていることを示しています。
ルイス氏は、「大都市の通りを歩いていて、昔の同級生に思いがけず遭遇し、二度見してしまうこととそれほど違いはありません」と述べています。
また「この結果は、現時点で、人間以外の動物が示した最長の社会的な長期記憶である」とも続けています。
もしかしたら実験に参加したチンパンジーたちは、私たちが古い写真を見ている時のように、昔の仲間を懐かしく思い、どこか切なくも温かい気持ちに満たされたのかもしれませんね。