紫外線を頼りに「大好物」を検知していた!
「ハナゴケ(学名:Cladonia rangiferina)」は名前にコケと付いているものの、実際にはコケではなく、藻類と菌類の共生体である地衣類の一種です。
耐寒性に極めて優れているため、北極圏でも豊富に繁殖しており、トナカイにとって欠かせない重要な主食となっています。
当然ながらハナゴケも真冬の暗い時期になると、雪に埋もれて見えづらくなってしまうため、トナカイにとっては厄介な問題です。
チームはこれを踏まえて、ハナゴケこそがトナカイの紫外線検出の秘密を握っていると予想しました。
今回の研究では、イギリス北部スコットランド高地にあるケアンゴームズ(Cairngorms)でフィールドワークを実施。
ケアンゴームズにはイギリスで唯一、野生のトナカイの一群が生息しており、さらにハナゴケを含む1500種以上の地衣類が自生しています。
真冬の暗い時期に調査をしたチームは、地衣類が雪景色に溶け込んで、人の目からは全く見えなくなっていることを確認しました。
にも関わらず、現地のトナカイたちは何の苦もなく、ハナゴケだけをピンポイントで見つけ出して食べていたのです。
そこでチームは、ケアンゴームズの地衣類に紫外線を当てたところ、ハナゴケを含む数種類の地衣類だけが紫外線を吸収することを新たに発見しました。
これを受けて、真冬のトナカイの視覚を模倣するよう調整した光フィルターを使ってケアンゴームズの景色を見た結果、謎が明らかになります。
紫外線を反射する雪は明るく照らされたように映るのですが、紫外線を吸収するハナゴケは暗い斑点のように見えて、そのコントラストからハナゴケがどこにあるかが一目瞭然だったのです。
その景色がこちら。
この写真は明るい可視光の中で撮影したものなので、そのままでもハナゴケの場所は分かりやすいですが、紫外線検出の能力は真っ暗な中でより際立つと考えられます。
おそらく、真冬のトナカイの目には暗視ゴーグルをつけたようにハナゴケの位置が見えているのでしょう。
以上の結果から、トナカイは暗い真冬でも好物のハナゴケを効率的に見つけるために、紫外線を検知できる視覚能力を手にしていたことが分かりました。
研究主任のナサニエル・ドミニー(Nathaniel Dominy)氏はこう話しています。
「トナカイといえど、寒くて不毛な環境の中、食べ物を探し回ってエネルギーを無駄にしたくはありません。
そこで遠くからでもハナゴケを見つけられれば、貴重なエネルギーを節約できるのです」
童話のトナカイはサンタが頼りにする「真っ赤なお鼻」で暗闇を照らしていましたが、現実のトナカイは「真っ青なお目々」によって暗闇を見通しているのです。