遠心分離機用のカメラを開発し、分離プロセスの映像を記録することに成功
遠心分離機は、高速回転による遠心力を利用して、比重の異なる物質を分離する機器です。
サラダドレッシングを放置すると水と油に分離してしまうように、通常(1G)の環境でも、比重の異なる物質は時間をかけてゆっくり分離していきます。
この原理を遠心力を利用することで、たとえ比重差が僅かでも、短時間で分離できるようにしたのが、遠心分離機です。
一般的には、2000~4000Gの遠心力を発生させて分離させますが、医療分野では1万G以上を発生させることもあるのだとか。
この遠心分離機は様々な分野で活躍しており、医薬品・電子材料・食品の製造、汚水や廃油の浄化に利用されます。
血液から赤血球や白血球などを分離したり、生物学的サンプルからDNAやRNAを抽出したりすることも可能です。
オランダのモーリス・ミッカーズ氏は、以前、オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)で働いており、数え切れないほど遠心分離機を使用してきました。
しかし、そんな彼でさえ、サンプルの「遠心分離前」と「遠心分離後」だけしか見たことがありませんでした。
もちろん科学的な図解やアニメーションから、遠心分離機の中でどのようなプロセスが生じているのかは知っていました。
それでも、サンプルが分離していく過程を実際の映像で見ることはなかったのです。
これは多くの研究者たちも同様でしょう。
そこでミッカーズ氏は、科学写真家に転職した後、遠心分離機の内部をカメラで記録したいと考えました。
長期にわたる試行錯誤の末、独自の設計や3Dプリンタを活用し、2500Gを発生させる遠心分離機の内部にカメラやその他の電子部品を取り付けることに成功しました。
そして2022年には、様々な液体が分離する様子をYouTubeで公開しています。
例えば下の動画は、マヨネーズを45分かけて遠心分離した映像を早送りしたものです。
上部から底部にかけて、油、卵、水の層に分かれていく様子を観察できます。
続いては果肉入りのオレンジジュースです。
最初は果肉が底部にたまる様子が目立ちますが、徐々に透明な水の層が作られます。
最終的には様々な層がはっきりと見えるようになっていますね。
最後はヨーグルトやベリー、バナナ、リンゴで作られたスムージーです。
最初は赤とピンクの2つの層が目立ちますが、最終的には、液体の赤い層とペースト状の白い層、底部の繊維層の3つに分かれていますね。
彼のチャンネルには、他にも様々なサンプルが遠心分離していく映像が投稿されています。
オランダのトゥウェンテ大学(Universiteit Twente)の流体力学者アルバロ・マルティン氏によると、この映像は「流体力学の研究者であれば誰でも驚く」ほど貴重なものだといいます。
現在、ミッカーズ氏の技術は、マルティン氏が主導する料理科学の研究に用いられており、その成果は2023年11月に開催されたアメリカ物理学会・流体力学部門の年次総会「76th Annual Meeting of the Division of Fluid Dynamics」にて発表されました。
加えて彼は、下水汚泥から貴重な資源を回収するプロジェクトにも参加しており、彼が開発した遠心分離機用のカメラが役立つ可能性があります。
そして遠心分離機の内部を視覚的に知ることは、食品科学や排水処理に限らず、遺伝学、物理学、芸術など、あらゆる分野の研究者にとって非常に重要です。
今後も、ミッカーズ氏の遠心分離機カメラの映像を通して、不透明だった私たちの理解が明確になっていくに違いありません。