実は細身でスリムだった?
今回の報告は、英スウォンジー大学(SU)が2022年に発表した研究結果の見直しに基づいています(Science Advances, 2022)。
両者の研究はともに、同じメガロドンの脊椎化石をもとに生前時の体サイズを推定するというものです。
2022年の研究では、ホオジロザメの体型を基本モデルとし、ホオジロザメの脊椎の直径がメガロドンの脊椎の直径と同じになるまで、体サイズをスケールアップするという方法を取りました。
そうして導き出された全長は頭を含めて約9.2メートルとなっています。
しかし研究チームは今回、同じメガロドンの不完全な脊椎セットをそれぞれ測定し直し、部位ごとに並べて再評価した結果、頭を含めない脊椎の全長だけでも約11.1メートルに達することが支持されたのです。
加えて、この個体がもしホオジロザメと同じ体型だったと仮定すると、約11.1メートルの胴体を支えるには強度不足であるとの結果が示されました。
研究者は「ホオジロザメの体型をこの脊椎化石に当てはめてみると、この脊椎の直径では小さすぎて、体の筋肉を支えることはできなかったでしょう」と話しています。
ずんぐりした胴体が脊椎を圧迫して、バキッと壊してしまう恐れがあるのです。
これを踏まえてチームは、メガロドンの体型は頭から胴体にかけて細身でスレンダーだった可能性が高いと提唱しました。
細長い胴体であれば、この脊椎の直径でも十分に筋肉を支えられるといいます。
また研究者らは、メガロドンの体型モデルとしてはホオジロザメよりもアオザメの方が適切であると指摘しました。
アオザメも同じネズミザメ目に属しますが、ホオジロザメとは違い、鼻先から胴体にかけてスラリとした細身体型をしています。
「ずんぐり」か「スレンダー」かは意外に大きな問題
研究者らは、メガロドンがずんぐり体型でもスレンダー体型でも、海の頂点捕食者だったことに変わりなかっただろうといいます。
その一方で、メガロドンの生態には大きな違いが出ると話しました。
例えば、体の形の違いによって効率的な泳ぎ方や遊泳スピードは変わりますし、また食生活にも影響が出ます。
具体的には、ホオジロザメのようなずんぐり体型だと消化管が短くなり、食べ物の消化・吸収の効率が落ちるので、どんどん獲物を食べる必要があります。
ところがスレンダー体型で消化管が長くなると、消化・吸収の効率が上がり、少ない獲物から十分な栄養が得られると予想されるのです。
となるとメガロドンもそこまで狩りに熱心にならなくて済んだかもしれません。
さらにこのことは周りにいる生物への捕食圧力が小さくなることを意味するので、生態系のネットワークにも少なからぬ影響を与えると思われます。
このようにメガロドンの体型がずんぐりかスレンダーかで、太古の海の様相はかなり変わってくるのです。
しかしチームの新たな仮説が正しいことを証明するには、メガロドンの全身骨格を見つけるしかありません。
それが見つかるまでは、ずんぐりvsスレンダー論争も続きそうです。