人間と動物で異なる「世界の色」の見え方
人間の目は、赤、青、緑の3種類の光受容体を持つ「3色型色覚」であり、この組み合わせによって100万から1000万もの色を識別できると言われています。
しかしすべての動物や虫が、同じように色を識別しているわけではありません。
例えば鳥は、赤、青、緑に加えて、紫外線を識別する受容体を持つ「4色型色覚」であり、人間とは異なる世界の色を感知しています。
人間が空を見上げると「明るく澄んだ青色」に見えますが、実際には人間に知覚できない紫外線で満たされています。
つまり、紫外線を知覚できる鳥たちにとって、空は「青色」というよりも「紫外線の色」なのです。
また、マウスなどは緑と紫外線の「2色型色覚」であり、こちらも人間とは大きく異なった見え方であるはずです。
だからこそ、「動物たちの視点で世界を見てみたい」と感じる人は少なくありません。
そして、それを可能にしたのが、フォルスカラー(False color)と呼ばれる技術です。
例えば、3色型色覚(紫外線、青、緑)であるミツバチの視点を再現するために、「紫外線→青」「青→緑」「緑→赤」というように、人間の可視範囲にシフトした画像を作るのです。
とはいえ、ハンリー氏ら研究チームによると、このプロセスは「動かないオブジェクトにのみ適用できる」ため、動物たちが実際に見ている世界の色を動画として記録することは難しかったようです。
そこで今回、彼らは、「可視光を記録するカメラ」と「紫外線を記録するよう改造したカメラ」の2台を用いて、この課題に取り組みました。
この新しいカメラシステムでは、紫外線と可視光を分離し、それぞれのカメラで処理します。
その後、2台のカメラの記録を重ね合わせて同期。アルゴリズムで動画を調整することで、「様々な動物が見ている映像」を再現することに成功しました。
また、フォルスカラー画像を作るための従来の方法と比較したところ、環境条件にもよりますが、92~99%という精度で再現できていることも分かりました。
では、実際にどのような見え方なのでしょうか。
例えば、次の動画では、鳥の見え方を示しています。
この動画では、紫外線が紫で表現されています。
通常、人間には蝶の羽がオレンジ、黄、黒に見えるものです。
一方、紫外線を見ることはできませんね。
しかしこの動画からすると、鳥には、蝶が羽を広げた際に反射する紫外線(紫色)が見えていることが分かります。
次の動画では、ミツバチの見え方が示されています。
紫外線、青、緑を、それぞれ青、緑、赤のフォルスカラーで再現しています。
動画で青色が少ないということは、一般的な自然風景では、紫外線から得られる情報が少ないことを示しています。
一方、下の動画では鳥の見え方が示されていますが、空は紫外線で満ちていることが分かります。
動画では、青、緑、赤をそのまま青、緑、赤で表示し、紫外線の色をマゼンダで重ねています。
鳥たちが見ている世界は、やはり人間とは異なりますね。
さらに下の動画では、ミツバチの見え方が示されており、日焼け止めの働きをよく理解できます。
ミツバチが持つ紫外線、青、緑の光受容体の反応を、それぞれ青、緑、赤で再現しています。
日焼け止めには紫外線を吸収する効果があるため、日焼け止めを塗布した部位には紫外線の反射を示す青色がほとんど存在せず、黄色(緑色と赤色が強くなるため)に見えていますね。
では、人間の目にカラフルな輝きを見せてくれるクジャクの羽はどうでしょうか。
この動画では、クジャクの羽を次の4つの見え方で再現しています。
(A)青、緑、赤をそのまま青、緑、赤として表示し、紫外線をマゼンダで重ねたもの、(B)人間、(C)ミツバチ、(D)イヌ。
クジャクの羽は構造色により鮮やかな色を示してくれますが、この色も、動物によって大きく見え方が異なると分かりますね。
「私たち人間が見ている世界の色は、共通ではない」ことが、新しいカメラシステムにより一層はっきりと示されました。
次にあなたが美しい景色を見る時、「他の動物にはどのように見えているのだろうか」と考えてみるのも楽しいはずです。