人類が衣服を着始めたのは17万年前?
リード氏ら研究チームはDNAシークエンシングを用いて、シラミの塩基配列を決定することで、アタマジラミからコロモジラミが遺伝的に分化した時期を測定しました。
その結果、コロモジラミが出現したのは今から約17万年前であることが判明したのです。
リード氏いわく、これは地球の気候が寒冷化し始めた時期と一致しており、人類が衣服を身にまとい始めたのは理にかなっているといいます。
また現生人類(ホモ・サピエンス)が出現したのは約20〜30万年前ですから、衣服を発明したのは私たちの直接のご先祖だった可能性があります。
その一方で、ヒト族は約120万年前には体毛を大幅に失っていたことが分かっています。
そうなると人類はかなり長い期間、ほぼ素っ裸で暮らしてきたことになります。この間、問題は生じなかったのでしょうか?
この疑問点については、人類がずっと留まってきたアフリカが、暑くて温暖な気候であったため衣服の必要性が生まれなかった可能性が考えられます。
その後、私たちの祖先は約6〜10万年前に故郷のアフリカを出て、現在のヨーロッパやロシアを含む高緯度の寒冷な地域へと移住して行きました。
こうした寒い地域への北上は、人類が衣服を発明していたからこそ可能になった偉業だったのでしょう。
当時の人類が着ていた衣服の現物は確認されていませんが、おそらく、最初のうちは石器を使って剥いだ動物の毛皮をまとっていたと推測されています。
そうして人類が動物の毛皮を着続ける中で、ヒトに寄生するシラミから新たにコロモジラミが進化したという流れがあるようです。
こうしたシラミの進化史にもとづく研究は、衣類の起源について有力な手がかりを提供してくれますが、しかしこれはあくまでも間接的な証拠に過ぎません。
考古学的な発掘調査や、シラミのように、衣服を作るための道具を間接的に調べる研究も含めて、人類の衣服の歴史を解明する試みは今後も続けられるでしょう。