ベテルギウスが「沸騰」しているせいで高速に見えていた?
ベテルギウスは現在、星の寿命の晩期における「赤色超巨星」という段階にあります。
星は晩年になると水素が枯渇し、ヘリウムの核融合を始めます。ヘリウムの核融合は水素よりもエネルギー放射が大きいため、星の自重で表面を押さえきれなくなり大きく膨張します。
現在ベテルギウスはこの段階にあると考えられ、途方もない大きさに膨らんでいます。
この状態の星の表面をどのように定義するかは難しい問題ですが、便宜上星の表面と表現される部分は激しい熱対流によってボコボコと泡立って見えるのです。
対流とは、液体中の温度差などが原因で流動が引き起こされる現象で、日常生活でも水を沸騰させるときに観察できます。
ただベテルギウスの対流は水の沸騰とは比べ物にならないくらい巨大なスケールで起きています。
そのため表面でボコボコと沸騰する泡は最大速度は秒速30キロメートル近い速さで上がり下がりしているのです。
このスケールで表面の泡がボコッと膨れ上がると、地球からはベテルギウスの光が青方偏移を生じているように観測されます。
逆に表面の泡がペコっと萎むときには、地球から遠ざかっているわけですから、赤方偏移が生じます。
つまり、べテルギウスの表面上で青方偏移と赤方偏移が繰り返し生じている状態になります。
こちらはベテルギウスの表面が沸騰するシミュレーション映像です。
これが原因で研究者はベテルギウスの自転速度を誤って算出していた可能性があるようです。
そこで研究チームは南米チリのアルマ望遠鏡を用いてベテルギウスを観測し、シミュレーションを行いました。
しかしアルマ望遠鏡を使っても、遠く離れているベテルギウスを高解像度で捉えることは難しく、全体的にボヤッとしていて、ボコボコと沸騰している様子は見えません。
それを踏まえてチームは、ベテルギウスの表面がボコボコと沸騰している場合の高解像度イメージと、そこから得られる「赤方偏移」と「青方偏移」の分布図をシミュレーションにより作成(下図の一番左)。
次に、それを元に解像度を落とした画像データを作成し(下図の中央)、それを実際にアルマ望遠鏡で得られたデータ(下図の一番右)と比較しました。
その結果、解像度を落としたもの(中央列)と実際のアルマ望遠鏡の観測データが(右列)見事に一致し、ベテルギウスの表面はシミュレーション通りにボコボコと沸騰している状態にあることが示されました。
そして問題の自転速度は、アルマ望遠鏡の現状の解像度が低いために、地球から見えるベテルギウス表面の「赤方偏移」と「青方偏移」をうまく識別できずに混同して、あたかも高速で自転しているように見えてしまったのだろうと結論づけられました。
ただし研究チームは、今回の結果があくまでシミュレーションから得られたものであり、「ベテルギウスが超高速で回転していないという確かな証拠にはならない」と指摘しています。
ベテルギウスの実際の自転速度を知るには、より解像度の高い望遠鏡での観測が必要になるようです。
とはいえ、ベテルギウスが近くで見た場合、かなり劇的な状態になっている可能性は高いようです。