デニソワ人の遺伝子が住民の適応力を高めていた!
パプアニューギニアは、オーストラリア大陸の北側にあるニューギニア島の東半分およびその周辺の島々からなる自然豊かな国です。
そこには多様な環境が広がっており、人々は住む場所によって異なる課題に直面しています。
例えば、低地住民はマラリアのような高地には存在しない病原体に晒されており、逆に高地住民はその標高の高さから低酸素の環境圧力を受けています。
しかし、こうした環境圧力の違いに対して、住民たちの体がどのように適応しているかはほとんど知られていませんでした。
そこで研究チームは今回、パプアニューギニアで1番高いウィルヘルム山(標高4509m)に暮らす高地住民54名と、海抜100メートル未満のダル島に暮らす低地住民74名を対象に遺伝子調査を実施。
その結果、高地住民と低地住民は血液の表現型において独自の遺伝子変異を起こしていることがわかったのです。
具体的にいうと、高地住民は血中の赤血球の割合が多くなっていました。
赤血球の役割は酸素を全身に運ぶことであり、パプアニューギニアの高地住民はその数を遺伝的に増やすことで、低酸素環境に強くなっていたのです。
一方で、低地住民は血中の白血球の割合が多くなっていました。
白血球は体内に侵入する病原体を撃退する働きがあり、パプアニューギニアの低地住民はおそらく、マラリアといった低地環境に存在する病原体への免疫力を高めていたのです。
さらに、それぞれの遺伝子変異はホモ・サピエンス由来ではなく、絶滅人類のデニソワ人に由来する遺伝子によるものであることが判明しました。
デニソワ人はかつてアジア全域に分布していた旧人類であり、絶滅する前に現生人類と遺伝的に交配していたことが知られています。
特にデニソワ人の遺伝的遺産は今日のパプアニューギニアやオーストラリアの先住民であるアボリジニ、フィリピンの少数民族であるネグリトで最も多く、遺伝子全体の約5%に見られます。
また研究主任の一人で、フランス国立科学研究センター (CNRS)の人類学者であるフランソワ=グザヴィエ・リコー(François-Xavier Ricaut)氏は「パプアニューギニアの人々は5万年以上前に現在の地に移入して以来、遺伝的に隔離されてきた点で特異である」と指摘します。
これを踏まえると、パプアニューギニアでは5万年前以降にデニソワ人との交配が起こり、今日に至るまでその遺伝的遺産を色濃く残し続けたと考えられるのです。
そしてデニソワ人から受け継いだ遺伝子は低地と高地で異なる機能を発揮し、それぞれの地に暮らす住民たちの適応力を高めていたのでしょう。
デニソワ人自体はもうこの世にいませんが、彼らの残した遺産はパプアニューギニアの人々の中で生き続けているようです。