アルコールを腸内で酢酸に分解し、血中アルコール濃度を低下させる「ジェル」
人がアルコールを摂取すると、胃や小腸で吸収されて血液に溶け込み、肝臓に運ばれます。
肝臓ではアルコールの分解が始まりますが、すぐには分解できず、その大部分が脳や全身に運ばれ、「酔った」状態を作ります。
もちろん肝臓では、アルコールの分解が進んでおり、まず酵素などの働きでアセトアルデヒドという物質に分解され、さらに酢酸(アセテート)へと変化。
この酢酸は血液に溶け込んで、水や二酸化炭素に分解された後、息や汗、尿として排出されます。
大量にアルコールを摂取してしまうと、肝臓がアセトアルデヒドを十分に処理しきれなくなります。
二日酔いの原因に関しては未解明な部分が多いですが、1つの可能性として挙げられるのは「アセトアルデヒドの蓄積」です。
今回、メッツェンガ氏ら研究チームは、血中アルコール濃度の増大やアセトアルデヒドの蓄積による身体へのダメージを防ぐジェルを開発しました。
このジェルは、牛乳のホエイ(チーズを作る際に固形物から分離した水分)から作られています。
ホエイを数時間煮沸すると長い糸状になりますが、これに、鉄原子を加えることでジェルになります。
通常、ジェルだけでも消化に時間がかかるものですが、さらに消化に時間がかかる金ナノ粒子を追加。
加えて、アルコール分解の酵素反応を促進するブドウ糖を投入にしました。
このようにして作られたジェルは、消化吸収を遅らせ、アルコールが毒性の低い酢酸に分解されるための時間を作り出します。
通常であれば、アルコールの分解は胃腸で吸収された後に、肝臓で行われます。
しかしこのジェルを使用するなら、アルコールの分解を腸内で行わせることが可能になるのです。
そして、そのメリットについてメッツェンガ氏らは次のように述べています。
「このジェルは、アルコールの分解を肝臓から消化管に移します。
肝臓でアルコールが代謝される時とは対照的に、中間生成物としての有害なアセトアルデヒドは生成されません」
摂取したアルコールが、腸内で直接酢酸に分解されるため、当然、血中に流れるアルコールも少なくなるでしょう。
実際、研究チームはマウスを使った実験で、その効果を示しました。
アルコールを与えられてから30分経ったマウスにジェルを投与したところ、マウスにおける血中アルコール濃度は、40%減少したのです。
またアルコール摂取から5時間経過したマウスでは、対照群と比較して、血中アルコール濃度が56%も低下していました。
しかもこれらのマウスでは、アセトアルデヒドの蓄積や肝臓のストレス反応が少なく、血液の値も改善していました。
加えて、10日間アルコールを与えられたマウスでは、血中アルコール濃度の低下だけでなく、ジェルの持続的な効果も確認できました。
「酒飲みのマウス」に毎日ジェルを投与したところ、彼らは対照群と比較して、体重減少や肝臓損傷が少なく、肝臓での脂肪代謝が良好で、他のいくつかの臓器への損傷が軽減されていたのです。
もちろん、これらはマウス実験の結果なので、今後の研究によって、「人間でも同様の効果が得られるか」「ジェルは人間の健康を損なわないか」など、多くを明らかにする必要があります。
メッツェンガ氏は「アルコールを飲まない方が健康的です」と指摘しつつも、「このジェルは、アルコールを完全に断つのは嫌だが、体に負担をかけたくない人にとって興味深いものとなるでしょう」と述べています。
ラムネ