1日11時間の従軍にも十分に耐えられた!
トロイア戦争は、古代ギリシャの詩人ホメロスがその英雄叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』に書き記した戦争です。
大まかに言うと、小アジアのトロイアに対してミケーアを中心とする大軍が遠征を行った戦いで、紀元前1700年〜紀元前1200年頃のどこかで起こったと伝えられています。
きっかけはトロイアの王子パリスがスパルタ王メネラオスの妃である絶世の美女ヘレネを奪ったことでした。
それに激怒したメネラオスが実の兄でミケーアの王であるアガメムノンに事の顛末を告げ、大軍を率いてトロイアに戦争を仕掛けたのです。
かの有名な「トロイの木馬」もこの物語に登場するミケーア側の戦術の一つ。
その様子はブラッド・ピット主演の映画『トロイ』(2004)に詳しく描かれていました。
トロイア戦争は長らく「ホメロスが描いた架空の物語だろう」と思われていましたが、ドイツの考古学者シュリーマンが1871年にトロイ遺跡を発掘し、実際に戦争の痕跡が出てきたことから「トロイア戦争は実話に基づいている」と考えられるようになっています。
さて、研究チームは今回、ホメロスが書き残したトロイア戦争の記述に基づいて、戦闘シミュレーションを再構築しました。
その中には1日数回〜数十回の対人戦闘のみならず、野営地から戦地までの行軍、当時の食事(乾パン・牛肉・ヤギのチーズ・オリーブ・赤ワインなど、1日4500kcal)まで再現されています。
ギリシャの海兵隊13名はギリシャの典型的な夏気温である30〜36℃の気候の下、約23キロの鎧を装着した状態で戦闘シミュレーションに参加しました。
シミュレーション全体は1日11時間にわたり、海兵隊はその間、心拍数、酸素消費量、深部体温、体液喪失、筋肉機能を測定されています。
そしてシミュレーションの結果、海兵隊たちは上半身の痛みや高度の疲労を報告したものの、鎧が彼らの戦闘効率を妨げることはなく、1日11時間の従軍にも十分に耐えられるほどの実用性があることが示されたのです。
また海兵隊たちの生理学的データを見ても、鎧を装着した状態での戦闘が身体機能にとって致命的にはならないことも確かめられました。
研究主任のアンドレアス・フロウリス(Andreas Flouris)氏は「鎧は海兵隊の柔軟な動きを可能にし、身体に過度の生理的ストレスを与えることもなかった」と説明。
「これまで鎧は儀式用の装束と考えられてきましたが、私たちの研究はこれが長時間の戦闘に適したものであることを実証した」と話しています。
以上の結果から、この鎧は単なる装飾用ではなく、実際の戦闘に使われていた可能性が高いと結論されました。
デンドラ村で見つかった鎧自体がトロイア戦争に使われたとは言えませんが、おそらく同じ型の鎧はトロイア戦争で実際に活躍していたかもしれません。