抗生物質は身体とって良い働きをする菌も殺してしまう
体調が悪くて病院に行くと、抗生物質を出されることがあります。
この抗生物質とは、細菌による感染症を治療するための薬です。
抗生物質は、細菌の細胞構造を破壊したり、細菌の増殖を阻害したりすることで細菌に対処するのです。
例えば、中耳炎、肺炎、膀胱炎などは細菌感染が原因であることが多く、抗生物質が処方されます。
しかしこの抗生物質には、欠点があります。
常在菌や身体にとって良い働きをする菌まで殺してしまい、副作用が出ることがあるのです。
例えば、抗生物質を使用すると腸内の善玉菌も減ってしまうので腸内環境が乱れてしまうでしょう。
またそのような腸内細菌叢の乱れは、感染症に対する脆弱性を高め、胃腸や腎臓、肝臓のトラブルに繋がることもあります。
抗生物質の利用において、上記のような身体に必要な細菌も殺してしまうという問題が特に大きく現れるのは、グラム陰性菌を無差別に殺すというタイプの薬です。
細菌はデンマークの学者ハンス・グラム氏によって考案されたグラム染色法により、「グラム陽性菌(ブドウ球菌、連鎖球菌など)」または「グラム陰性菌(大腸菌、サルモネラ菌など)」の2種類に大別されます。
このグラム陽性菌とグラム陰性菌では細胞壁の構成が異なっており、グラム陰性菌は二重の防御層を持っているため、グラム陽性菌に比べて殺菌が困難です。
そのためグラム陰性菌由来の感染症だけをターゲットにできる抗生物質はほとんどありません。身体に有益な細菌を殺してしまう強い抗生物質は主にグラム陽性菌ごと無座別にグラム陰性菌も殺す薬です。
しかし腸内細菌叢のかなりの割合がグラム陰性菌で構成されているため、こうした抗生物質を使った場合、身体にはかなりの影響を及ぼすことになります。
例えば、グラム陰性菌由来の感染症に対して有効な抗生物質「コリスチン」は、細菌性赤痢などに対して有効ですが、腎不全、肝機能障害だけでなく、生命を脅かす偽膜性大腸炎などを引き起こす恐れがあり、通常は「最終手段」として利用されます。
こうした背景にあって、ムニョス氏ら研究チームは、「グラム陰性菌を無差別に殺さない抗生物質」を開発したいと考えたのです。