病原菌だけを選択的に殺す「次世代抗生物質」を発見
ムニョス氏ら研究チームは、抗生物質がグラム陰性菌を無差別に殺す問題に対処するため、グラム陰性菌のみが持つ「Lolシステム」に着目しました。
これは細菌の増殖に寄与する重要なメカニズムです。
しかもこのシステムは、感染症を引き起こす有害な菌と、身体に有益な菌において、遺伝的に異なっています。
つまり、遺伝的に異なる有害な菌のLolシステムだけを阻害できれば、腸内細菌叢を守りつつ、グラム陰性菌由来の感染症だけを治療できる可能性があるのです。

そして研究チームは、様々な化合物構造を試した結果、新しい化合物「ロラマイシン(lolamicin)」にたどり着きました。
実験室でのテストでは、ロラマイシンの投与により、有害なグラム陰性菌の一部を選択的に死滅させることに成功しました。
感染症の主な原因となる大腸菌や肺炎桿菌、エンテロバクター・クロアカの3種に関しては、最大90%も死滅させることに成功しました。
また、敗血症のマウスと肺炎のマウスにロラマイシンを経口投与したところ、敗血症のマウスでは100%、肺炎のマウスでは70%が救命されました。
しかもそれらのマウスの腸内細菌叢は、3日間の治療期間中だけでなく、その後28日間の回復期間中も悪影響を受けていませんでした。
この結果は、マウスの腸内環境に劇的な変化を与えて有益な腸内細菌を減少させる「標準的な抗生物質」とは、対照的です。
もしかしたらこの成果は、人間に対しても適用できるかもしれません。
ロラマイシンは善玉菌を保護しながら病原菌だけを死滅させる「次世代抗生物質」として注目に値するものです。
とはいえ、実際にロラマイシンが薬局で販売されるのは、まだまだ先のことです。
研究チームは、「この薬を他の細菌でもテストし、毒性を判断していくには、さらに何年もの研究が必要だ」と述べています。
こうした薬が一般的になれば、もう抗生物質を飲んでお腹を下すということもなくなるかもしれません。
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