フライト中の低圧環境が乗客に及ぼす影響
高高度のフライトは、燃費が良く、悪天候や乱気流を避けることができるため、航空機にとってメリットばかりです。
しかし、機内の人間にとっては、心地よい環境ではありません。
高度約1万mを飛行する航空機の周りでは、気圧が著しく低下しており、酸素も少なくなります。
もちろん機内では、気圧を調整する装置によって地上に近い環境を作り出していますが、それでも地上と全く同じではありません。
機内気圧は約0.8気圧程度になるため、内部の乗客は標高約2000m(富士山5合目)いるのと変わらない環境になるのです。
また気圧の低下に伴い、健康な乗客でも血中酸素濃度(SpO2)がいくらか低下します。
このSpO2の標準値は96~99%であり、90%以下(低酸素血症の目安)になると十分な酸素を全身の臓器に送れなくなった状態だと言えます。
機内では、それら特殊な環境により、乗客のSpO2が90%を下回ることがあります。
そうなると、体中の組織に酸素が不足した状態になるため、酸素供給を安定させるために心臓の拍動が速くなります。
こうした変化は体に良いものではなく、心臓や呼吸器にトラブルを抱えている人や妊婦、新生児に悪影響を及ぼす恐れがあります。
そして似たような体の反応は、アルコール飲料を摂取した時にも生じます。
お酒を飲むと血管の拡張などの反応が起こり一時的に血圧が下がるため、血圧を安定させるために体は脈拍を増加させます。
過去の研究では、アルコールが睡眠中の心拍数を増加させることも示されています。
そのため、長時間フライト中に飲酒をした乗客は、「低圧環境」との組み合わせた2つの要因で心拍数の増加を体験する可能性が高いのです。
では、実際にフライト中の気圧環境で飲酒した場合、私たちの体はどのような状態になるのでしょうか?
トラマー氏ら研究チームは、この疑問に答えるために、実験を行うことにしました。