朝練習をしている学生アスリートの睡眠が悪い
学生アスリートは、トレーニングに費やす時間、移動や試合に伴う生活環境の変化といったアスリート固有の問題に加え、授業、課題、テスト勉強などの学業上のタスクもあるため、睡眠が乱れがちです。
そこで、ハートプリー大学に所属する研究グループは、学生アスリートの睡眠状況に加え、睡眠状況の悪いアスリートの特徴を詳しく調べました。
対象となったのは、イギリスのある1つの大学・カレッジセンター(16歳から18歳までの学生が進学するための教育機関)に在籍する学生157名で、その平均年齢は18歳でした。
調査対象となった全員が競技スポーツに取り組んでおり、試合を含むスポーツ活動や授業は全て平日に行われ、週末には予定された活動がありませんでした。
調査では、睡眠研究で広く使われているピッツバーグ睡眠質問紙(PSQI)などを用いることで、睡眠状況を明らかにしました。
また、朝練習の頻度(午前9時までに行われるスポーツ活動の頻度)や夜練習の頻度(午後9時以降に行われるスポーツ活動の頻度)に加え、スポーツや学業に費やす時間などについても調査し、睡眠状況との関係を探りました。
得られた結果を見ると、まずおよそ半数の学生アスリートの睡眠の質が悪いことが分かりました。
また、週末に比べると平日では寝床につく就寝時間が平均38分早い一方で、起床時間は平均118分も早くなっていて、結果として睡眠時間が1時間以上も少なくなっていました。
実際、睡眠時間が7時間未満の人は、週末では10%未満だった一方で、平日ではおよそ4人に1人であったことから、平日の睡眠時間が足りていないことが明確です。
さらに研究グループは、朝練習の頻度が多い学生アスリートで特に睡眠の質が悪く、平日の睡眠時間が短いことを見つけました。
平日と週末の睡眠時間や就寝・起床時間がずれることは、社会的ジェットラグ(社会的時差ボケ)と呼ばれ、体内時計の混乱を引き起こします。
今回の研究結果は、授業のある平日では就寝時間を早めても、それ以上に起床時間が早くなってしまうために、社会的ジェットラグが起きやすいことを示しています。
さらに、朝練習を取り入れている学生アスリートでは、より朝早くからの活動が強いられるため、社会的ジェットラグの影響が強くなり、良質な睡眠が妨げられやすかったと考えられます。
研究グループは、スポーツ活動のスケジュールを調整して早い時間帯の練習を避けることは、睡眠を改善する手段となり、スポーツパフォーマンスと学業成績を向上させる可能性があると指摘しています。
実のところ研究の世界において、朝練習のマイナス面が指摘されることは珍しくありません。
睡眠研究の専門家であるアメリカ・アリゾナ州立大学のヤングステッド教授は、スポーツ界に残る伝統や指導者の姿勢などが練習のスケジュールを変える上で大きな障壁になっていることを指摘した上で、練習時間を遅い時間にシフトすることが、アスリートに有益な効果をもたらす可能性があると言及しています。
その一方、箱根駅伝に出場するランナーのように、朝練習を取り入れている学生アスリートの中には競技力が高い者も多くいます。
なぜ彼らは朝練習を取り入れながら、競技力を高めることができるのでしょうか?