飼育成功によりライフサイクルの全貌が明らかに!
チームはまず、野外での観察と飼育下での食事行動の記録によって、アオウミウシの成体の餌となる海綿動物を特定しました。
次に、この海綿動物を用いてアオウミウシを飼育したところ、複数の卵が塊状になっている「卵塊」を得ることに成功しています。
産卵から約6日後、1つの卵塊から数千匹以上のアオウミウシの幼生(体長わずか0.1ミリ)がふ化しました。
これらの幼生を飼育容器の中で微細藻類を与え続けたところ、約3週間ほどで「眼点」の形成が確認されています。
さらにこの段階で、成体の餌である海綿動物と同じ容器に入れると、幼生は浮遊生活をやめて底生生活に移行し、それまで持っていた小さな殻を脱ぎ捨てるなどの「変態」を始めたのです。
こうして「幼若体(ようじゃくたい)」となったアオウミウシは、大人と同じ海綿動物を食べながらスクスクと成長。
この過程で、おなじみの青や黄色からなる鮮やかな体色模様を完成させ、触覚やエラ、肛門といった主要な器官を形成させました。
9つのステージに分けられる!
チームはこうした外見上の変態にもとづいて、アオウミウシのライフステージを9つに分類できることを突き止めました。
まず変態期として、浮遊〜底生に移行して貝殻を脱ぎ捨てる「M1」と、触覚の形成が始まる「M2」があります。
その後、幼若体は体色や器官の形成に応じて、J1〜J7に分類されました。
J1では触覚を動かせるようになり、海綿動物を食べるときに用いる「骨針(こっしん)」が形成されました。
J2では外敵から身を守るための化学物質を貯蔵する組織「外套膜腺(MDF)」が体の後ろの方に誕生。
J3では青色と黄色の色素沈着が体に起こり、J4では体の背側後方に肛門突起が形成され、その中心に成体の肛門が形成されました。
J5では「外套膜腺(MDF)」が体の前方にも現れ、J6では触角が真ん中が少し膨らんだ紡錘形になり、J7では黄色の斑点が出現。
こうした9つのライフステージを経て、アオウミウシは完全なる成体となっていたのです。
その6カ月後には交尾と産卵が確認され、再び新たな命のサイクルが始まっています。
以上のように、アオウミウシを卵〜成体にかけて飼育下で育て上げた例は世界では初めてとのことです。
この貴重な成果により、今後はアオウミウシを外見から観察するだけで、9つのライフステージのどの段階にあるかが特定できると期待されています。
アオウミウシでは従来、幼生や幼若体、成体の適切な飼育条件が不明でしたが、今回の知見は各ステージにおける飼育方法の確立にも大いに役立つでしょう。
また同じ知見はアオウミウシが属するイロウミウシ科の他の種にも応用可能と考えられています。
これらは研究用の飼育のみならず、水族館展示などの商業利用にも貢献できるとのことです。