複雑な軌道を持つローレンツ・アトラクタ
複雑な軌道を持つローレンツ・アトラクタ / Credit:Wikipedia Commons
physics

日常に現れる予測不能なカオス現象の謎 (3/3)

2024.09.01 Sunday

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パイを作るとカオスが現れる?

カオス現象に関連してもう一つ、パイこね変換(baker’s transform)というものを紹介します。

これはパイの生地の上に、何か意味のある絵や規則的な模様が描かれていたとして、パイを引き延ばして折り畳むという操作を繰り返したときにその絵がどの様に変化するか予想できるか? という問いかけが由来になっています。

やってみるとすぐわかることですが、ここにも複雑なカオス現象が潜んでいます。

パイこね変換を数学的な操作として簡単に表すと、次のようになります。

与えられた1✕1の正方形を横方向(x 方向)に2倍に伸ばし、縦方向(y 方向)に1/2に押しつぶす。

押し伸ばされた領域の内、元の1✕1の正方形の領域からはみ出た右半分の領域(1 < x ≤ 2 )を切り取り、はみ出ていない左半分の領域(0 < x ≤ 1 )の上に乗せる。

パイこね変換の模式図。最初の2つの操作が「引き延ばし」に相当し、最後の2つの操作が「折り畳み」に相当する。
パイこね変換の模式図。最初の2つの操作が「引き延ばし」に相当し、最後の2つの操作が「折り畳み」に相当する。 / Credit:Wikipedia Commons

これを一回の操作とします。

1番目の操作は「引き延ばし」、2番目の操作は「折り畳み」に対応し、これらはカオス現象を発生させるための仕掛けとなります。

パイをこねつづけると、つまりこの変換を繰り返し行うとどのような変化が起きるのでしょうか。

パイこね変換を4回繰り返したときの様子。初期にあった顔が混じって無秩序な模様になっていく。
パイこね変換を4回繰り返したときの様子。初期にあった顔が混じって無秩序な模様になっていく。 / Credit:Wikipedia Commons

パイこね変換を4回繰り返すと、目印として付けておいた顔の形の面影はほとんどなくなり、混ざりあったような模様になってしまいます。

ここから更に変換を繰り返すと、より混ざり具合は高くなっていきます。

パイを小さな点の集まりとみなして考えると、初期の各点は離れ離れになっていき、初期に固まっていた領域は一様に全体へと広がっていきます。

この元々の秩序だった模様が変換によってどんどん無秩序になっていく様子は、カオスとしての性質を持っています。

パイこね変換によってある2つの初期点が離れていく度合いは指数関数的に変化するため、その未来の値は初期値の少しの変化によって大きく変わるのです。

この変換は料理のパイやうどんなどの生地を、押し潰しては折り畳むという作業を繰り返すことによって生地を材料の偏り無く一様にできることの説明とも言われます。

カオス現象は初期値に大きく左右され、ある程度時間が経った状態の予測は困難です。

その上身近なところにもよく現れ、天気予報という私達の生活を支えるツールにも関連しています。

このことを知っていれば、台風の進路がどんどん予想とズレていっても、「これだけ難しいことをしているならわからなくても仕方ないよな…」と少し優しい気持ちになれるかもしれません。

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日常に現れる予測不能なカオス現象の謎 (3/3)のコメント

カオス私見

カオス現象は、現時点の科学の力での単に数値的に解析できないことを言うのか、それとも原理的に解析不可能を言うのか。

原理的不可能を言うのではなく、人類の科学の力の未熟さに起因しているんだよね。

    ゲスト

    原理的不可能やな。
    地球上のすべての粒子をシミュレーションできるようになっても、量子力学の不確定性原理でランダムに決まった粒子のせいでカオス現象が起こるので、事前に答えを知ることは原理的に不可能や。

    量子力学の不確定性原理を否定する理論、シュレディンガーの猫の生死を当てる理論でも出てくれば別やけどな。

カオス私見

コメントはどこで閲覧できるのか?

    ゲスト

    何を言っているのか予測不能

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