脳の活性化は「愛する相手」ごとに違っていた!
データ分析の結果、人に対して向けられる愛情で活性化する脳領域はおおむね似ていたことがわかりました。
ただし愛情を向ける対象ごとに、活性化する脳領域の場所と活性化の強度の確かな違いが明らかになっています。
まずもって、6つの愛情の中で最も強い脳の活性化を示したのは「親から子供への愛情」でした。
それに次いで「恋人への愛情」が2番目、「友だちへの愛情」が3番目となっています。
人に対する愛情においては主に、大脳の表面に広がる一領域で、側頭葉と頭頂葉が接する「側頭頭頂接合部(TPJ)」、それから脳の前部である前頭葉の真ん中(正中線)が活性化していました。
これらの領域は、他者の意図や思考の理解、他者との協調といった社会的認知に深く関わっています。
その一方で「親から子供への愛情」には、他の対人愛には見られない脳領域の活性化が確認できました。
親の愛情では、大脳の深部にあり、計画や意思決定に深く関与する「線条体(せんじょうたい)」が強く活性化していたのです。
研究者は「子供を育てるには多大な資源や労力が必要であり、それを得るために計画を練り、意思決定することが重要である点を踏まえれば、線条体が活性化するのは進化的に理にかなっている」と説明しています。
対照的に、見知らぬ人への愛情は他の対人愛で見られたのと同様の領域が活性化していたものの、その活性化の強度ははるかに小さなものでした。
つまり、脳の活性化レベルを見れば、その人が相手を大切な友だちと見ているのか、赤の他人と見ているのかがわかるでしょう。
もし自分がケガしたときに、親友と思っている人が下図の右のような反応を示していたら大変ショックですね。
それから「ペット」と「自然」への愛情は主に、脳の報酬系と視覚野を活性化させており、対人愛のような社会的認知に関する脳領域はあまり関与していませんでした。
視覚野は大脳皮質の後頭葉に位置しており、目で見たものの情報を受け取る部位です。
報酬系は中脳から大脳辺縁系を経て、前頭前皮質に至る回路にあり、主に心地よい刺激や快感に反応して活性化します。
動物を目で見て「可愛い」と感じたり、自然の中にいて「心地いい」と感じることから、これらの脳領域が活性化することも納得でしょう。
研究者はまた、ペットを飼っている人と飼っていない人で結果は一目瞭然であり、脳の活性化レベルを見るだけでその人がペットを飼っているかどうかが見分けられるだろうと話しています。
以上の結果を受けて、研究主任のペルティリ・リンネ(Pärttyli Rinne)氏は「様々なタイプの愛情に関連する脳活動について、これまでの研究よりも包括的な全体像が明らかにできました」と述べました。
今回のように「愛情」の背後に隠された神経メカニズムの違いを解明することで、親子間で愛情がうまく育めない「愛着障害」や他者に対して恋愛感情が抱けない人々の診断や心理療法に役立つと期待されています。
同じ研究チームは以前に「愛情を体のどこで感じているか」に関する調査も報告していました。