意味もなく捕獲されるタヌキ、戦後改革の一環で消えたばばあ汁
カチカチ山の話の原型は戦国時代には完成しており、江戸時代にはカチカチ山の赤本(子供向けの本)が数多く出版されていました。
ここでカチカチ山のあらすじについて簡潔に紹介します。
昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは悪さをしたタヌキを捕まえて閉じ込めていましたが、タヌキはおばあさんを騙して抜け出し、おばあさんを殺しました。それに対しておじいさんはウサギに一部始終を話し、ウサギはそれを受けてタヌキに復讐をします。最終的にウサギはタヌキを懲らしめて、めでたしめだたし。
大まかなあらすじは以上の通りですが、詳細は時代によって大きく異なっています。
まず悪さをしたタヌキを捕まえるシーンですが、明治時代後期になるまでそもそもどこでタヌキを捕まえたのかについて言及されておらず、いきなりおじいさんがタヌキを捕獲して担いで帰っているシーンからはじまります。
これは江戸時代や明治時代前期においてはタヌキが害獣であることは自明の理であり、「おじいさんがタヌキを捕まえる」ことを正当化する必要がなかったからです。
なお明治時代後期、おじいさんは「畑を荒らした」という理由で捕まえていたものの、1960年代頃からは「タヌキが悪口を言ったり馬鹿にしたりから」という理由で捕まえるようになっており、タヌキの捕獲理由は時代が下るにつれてどんどん寓話的な表現になっていきました。
またタヌキがおばあさんを殺害するシーンですが、殺害方法については非常にバラエティに富んでおり、一番メジャーな杵(きね)による撲殺だけでなく、絞殺や刺殺、果てや飛びつきまで様々な方法が用いられていました。
さらにタヌキが殺害したおばあさんを調理してばばあ汁たる料理を作りそれをおじいさんに食べさせるシーンは、江戸時代はおじいさんが「ばばあ臭い」と料理を怪しがっている展開になっているものの、明治時代後期には「おいしい」といって何度もおかわりする展開になっています。
しかし1950年代頃からは一転してタヌキはおばあさんに怪我を負わせるだけになり、1960年代半ばまでおばあさんが殺される作品は皆無だったのです。
これは、戦後の改革のもとで子供には勇ましくすることよりも仲良くすることを求めるようになり、その一環として昔話内の殺人描写が省略されるようになったものであるとされています。
その後1960年代後半以降は昔話ブームもあって原作通りに伝えなければならないという認識が高まったこともあり、おばあさんが殺害される作品も徐々に増えていきました。
しかしばばあ汁に関しては引き続き省略されたり、登場してもあまり注目されなかったりしていており、今に至るまで復権できていません。