バンドウイルカも遊びながら微笑み合っていた
研究チームは、イタリアのズーマリン(Zoomarine)で飼育されているバンドウイルカ11頭(オス6頭、メス5頭、年齢範囲1〜38歳)と、フランスのプラネット・ソヴァージュ(Planète Sauvage)で飼育されているバンドウイルカ11頭(オス7頭、メス4頭、年齢範囲1〜34歳)の行動をビデオ録画しました。
映像解析は、遊びを単独での遊び、人間とイルカ間の遊び、イルカ同士の遊びの3種類に分類して行われました。
単独での遊びとは、おもちゃや気泡を使ったり、ジャンプしたり水面を尾で叩くといった行動を指します。
人間とイルカ間の遊びには、人間が餌を持たない状態でイルカが自発的に近づき、いないいないばあをしたり、物を投げたり、飼育員に水をかけたりするなどの行動が該当します。
なお、実験中にイルカと遊ぶ際、人間の表情がイルカの自発的な笑顔の使用に影響しないよう、飼育員はイルカに表情を見せないようにしました。
イルカ同士の遊びとは、追いかけあったり、胸や尾を擦り合わせる、相手の体の一部を噛もうとするといった行動がこれに当たります。
映像解析の結果、単独で遊んでいるときには笑顔が1回しか記録されなかったのに対し、人間または仲間のイルカたちと遊んでいるときには1,288回の笑顔が観察され、このうち、92%はイルカ同士で遊んでいるときでした。
つまり、バンドウイルカはイルカ同士で遊ぶときに笑顔をコミュニケーション手段として使用していることがわかりました。
また、自分の顔が遊び相手のイルカの視野に入っているときに笑顔を示す傾向が強く、観察された笑顔のうち89%がこの状況でみられました。
そして、この笑顔を感知した相手のイルカは33%の確率で真似をした、すなわち、遊び相手の笑顔を見て笑顔を返していたことが判明しました。
偶然、口を開けるタイミングが重なっただけでは?と思う人もいるかもしれませんが、相手の笑顔を視覚的に感知してから1秒以内に笑顔を真似をする確率が、視覚的に笑顔を感知していない場合に比べて13倍も高くなる理由は説明できないと著者らは述べています。
さらに、イルカが相手の笑顔を真似する確率が、ミーアキャット(Suricata suricatta)やマレーグマ(Helarctos malayanus)など肉食動物の研究で報告されたものと近しい結果であったことも今回の研究成果を裏付けています。
この研究でバンドウイルカが遊びの中で笑顔を使ってコミュニケーションをとることがわかりましたが、研究者らは、表情以外にもイルカが発する声や水の動きによって生じた水圧の変化など触覚的な刺激がコミュニケーションにどう影響しているかについても調査する必要があるとしています。
今後、視線追跡技術や超音波音声録音などを用いた様々な研究が行われれば、イルカが遊びの最中にどのようにしてコミュニケーションをとっているのかより深く解明されるかもしれません。