粒子のクラスター化で「嗅覚の能力」を高めている可能性
音響学に関するこれまでの知見では、超音波を使うことで空気中の粒子を動かし、クラスター化(複数の粒子が集まって集合体を形成すること)できることが十分に知られています。
超音波は特定の周波数や強度で空気中を伝わる際に、粒子に力を加えることで粒子を動かしたり、集めたりできるのです。
メルカド氏は「超音波を使って粒子を操作する技術が音響学の分野で使われていることを知っていたので、これはマウスにも使えるかもしれないとすぐに思いました」と話します。
そしてメルカド氏は、マウスが超音波発声で空中のニオイ分子をクラスター化させることで、鼻で簡単に拾いやすくし、その匂いの発信源の情報をより検出しやすくしているのではないか、と考えたのです。
その中には例えば、親しい仲間や家族あるいは天敵、食料、それから潜在的なパートナーが残したフェロモンなどが含まれるでしょう。
つまり、マウスは超音波で口説き文句を話しているわけではなく、ニオイ分子を集めて嗅覚を高めている可能性があるのです。
このような能力はどの生物でも未だかつて観察されたことも推測されたこともありません。
仮説を提唱した当のメルカド氏も「これは私たちが従来知っていることとはあまりにもかけ離れている」と説明。
その上で「そのような能力はまさに魔法のようであり、私たちは”ジェダイ”のようなネズミを観察していることになる」と話しました。
SF映画の金字塔『スター・ウォーズ』に登場する戦士ジェダイはフォースという特殊な力を使って、モノに触れることなく空中に持ち上げることができます。
また空中に持ち上げた無数のモノを一箇所にまとめて相手に投げつけることも可能です。
これはまさしく、この仮説で主張されているマウスの能力と一致します。
ただ普通より大きなニオイ分子の固まりが鼻に入ると、多少の違和感を感じることが予想されます。
それゆえに、超音波を発したマウスは必ずといっていいほど、鼻をすする行動を取っているのかもしれません。
しかし一方で、この大胆な仮説はまだ概念として提示している段階で、実験的には確認されていません。
そこでチームは次なるステップとして、マウスが本当にジェダイのように超音波を使っているのかを確かめる予定です。