笑顔を同時に増強するAIがユーザー間の恋愛感情を操作する
今回の実験には、31人(独身の異性愛者)が参加しました。
各参加者は、オンライン上で二人一組になり、計4回のオンラインデート(ビデオチャットによる会話)を行いました。
それぞれのデートの後、参加者たちは、相手に惹かれたか、相手にもう一度会いたいと思ったか、会話の質はどうだったか、などを評価します。
ただし研究チームは、ビデオチャットの間、参加者には知らせずに、AIにより笑顔を僅かに増減するフィルターを作動させました。
このフィルターは、ビデオチャットしている参加者の笑顔のレベルを僅かに強めたり、逆に弱めたりできます。
この操作によって、AIは両者が笑顔を浮かべるタイミングさえ意図的にズラしたり、逆に同時に笑顔を作っているように演出することができるのです。
参加者たちは、こうした笑顔を操作するフィルターが仕込まれていることに、実験中全く気付きませんでした。
しかし、実験後のアンケートによって、この気づかないレベルの笑顔の増強でも、お互いの魅力を増大させていると分かったのです。
特に効果が高かったのは、両者の笑顔を同じタイミングで増強した時です。
2人を同時に笑顔にした時、参加者たちは、他の条件の時よりも相手に惹かれやすくなり、互いに対する魅力が大きくなったのです。
サラ氏も、「ロマンチックな魅力は、参加者が同時に、お互いの笑顔を認識しているかどうかに影響されました」と述べています。
よくお互いが笑顔になった瞬間を「心が通じ合った時」「お互いに好きになった時」と表現することがあります。
この実験では、AIがそのような場面を意図的に作り出すことで、参加者たちにほのかな恋愛感情を芽生えさせることに成功したのです。
ちなみに、研究チームがデート相手の笑顔をより増やすと、参加者は「相手は自分に一層惹かれている」と信じるようになりました。
これは、AIによる笑顔フィルターの効果が非常に強力であることを示しています。
今回の研究結果が示すのは、「AIが人間の感情を操作し、人間関係を変えてしまうかもしれない」という危惧です。
こうした技術は、当然オンラインデートだけでなく、オンライン面接などオンライン上で交わされるあらゆる会話に介入して印象を操作できる可能性があります。
そのため研究チームも、「これらのテクノロジーの使用と規制に関する明確な倫理ガイドラインが、将来的に必要になるかもしれない」と述べています。
写真や動画で見た目を良くする顔加工フィルターは、現在広く普及していますが、これは顔全体の作りさえ変えてしまうものが多く会った瞬間にすぐにバレてしまいます。
本当に上手な嘘は、ほとんどを真実で語り、必要最低限なわずかな場所だけ偽ることだと言いますが、もし相手に会うことを前提とするなら、この「気づかれないレベルでわずかに笑顔を操作する」フィルターは非常に強力なツールになるかもしれません。
第一印象は人間関係を築く際に、かなり重要な要素です。
未来世界では、人間が自分の自由意志だと信じながら、実はAIに恋愛感情を操作されているというディストピアが広がってしまうかもしれません。