徐々に人々が関心を失った「月面着陸」
ここまでで3度の月面着陸が成功し、計6人の宇宙飛行士が月面に降り立ちました。
しかしこうした成功は、次第に月面着陸を当たり前のニュースにしてしまい、人々の関心を月から遠ざけてしまいました。
それでも、人類の月面へのアプローチはしばらく続きます。
アポロ15号
1971年7月30日、アポロ15号に乗ったデビッド・スコット氏と、ジェームズ・アーウィン氏は、月面に到着しました。
月を歩いた7人目と8人目です。
この時点で、NASAは既に予算削減を予想しており、月を最大限に活用するためにミッションにいくつかの変更を加えました。
その1つが月面車の最初の使用です。
この月面車のおかげで、これまでの徒歩と比べて、はるかに遠くまで探査することが可能になり、より多くのサンプルを採取することが可能になりました。
これによりアポロ15号では合計18時間以上の船外活動により、月面から77kgものサンプルが採集されてします。
そしてスコット氏は、物体は質量に関係なく同じ加速度で地面に落ちることを示す「ガリレオの実験」を行いました。
大気の影響を受けない月面で重いハンマーと軽い羽を同時に落とし、ガリレオの主張が事実であることを実証したのです。
NASAはアポロ15号を、「それまでに行われた中で最も成功した有人宇宙飛行だった」と表明しています。
アポロ16号
1972年4月21日、アポロ16号に乗ったジョン・ヤング氏と、チャールズ・デューク氏が月面に着陸しました。
彼らは月を歩いた9人目と10人目の人類となったのです。
2人は月面でほぼ3日間を過ごし、この間に通算で3度の船外活動を行いました。
このミッションでも月面車が使用され、2人は合計で95.8kgのサンプルを採集し、地球へ持ち帰りました。その中には、月から持ち帰った最大の岩石(11.7kg)も含まれています。
アポロ16号では、月の高地地域を主に探索し、高地の岩石サンプルが持ち帰られた初めてのミッションとなりました。これにより、月面全体の地質的な多様性も明らかになり、月の地質構造や形成プロセスを解明する上で重要な発見がもたらされました。
アポロ17号
1972年12月11日、アポロ17号に乗ったユージン・サーナン氏と、ハリソン・シュミット氏が、月面に着陸しました。
11人目と12人目であり、2024年現在、彼らが月面を歩いた人類最後の宇宙飛行士です。
アポロ17号は、アポロ計画における最後の飛行であり、史上6度目にして最後の有人月面着陸を行ったのです。
NASAはアポロ計画を良い形で終わらせたいと考え、アポロ17号では、より長いミッションが行われました。
17号のミッションでは、最も長く宇宙に滞在し、最も長く月面活動を行い、最も多く月面からサンプルを持ち帰り、最も長く月周回軌道に滞在するなど、数々の記録を打ち立てたのです。
この最後のミッションでは、初めて正規の科学者(シュミット氏)が同伴しました。
アポロ計画では、宇宙飛行士の多くは軍のパイロットや航空エンジニアなど、主に操縦やミッション遂行能力を重視したメンバーで構成されていたため、科学者がついていくというのはこれが初めてだったのです。
シュミット氏は地質学者であり、アポロ17号で収集された大量のサンプルや詳細な地質データは、月面地質学の理解を大きく進展させました。特に、この調査では月の火山活動の痕跡も発見され、月の進化過程の新たな側面が浮き彫りにされました。
また、このシュミット氏は月の塵にアレルギー反応を起こした人類最初の人物となりました。
これほど目を引く記録があるにも関わらず、このミッションはテレビでほとんど放送されませんでした。
月面着陸も6回を数えると、それはゴールデンタイムを賑わすビッグイベントではなく、日常的なものになっていたのです。
この事実は、一般の人々に科学調査研究に関心を持ってもらうことの難しさや、その意義を伝えることの難しさを示していると言えるでしょう。
月面を歩く13人目は、2026年に誕生するかも
人類が最後に月面を歩いたのは、1972年です。
アポロ計画の終了後、NASAは宇宙開発の優先順位を変化させてきました。
月面での活動の後は、人類の低軌道上での活動や、長期滞在型の宇宙ステーションに注力する方向へとシフトしたのです。
また他の惑星への探査計画の関心が高まり、月面探査よりも火星探査や宇宙望遠鏡による深宇宙観測に予算や技術が振り向けられるようになりました。
これは人々の関心も同様であり、月面歩行に関する話題やニュースはあまり見られなくなりました。
では、人類は再び月面を歩くことはないのでしょうか。
そうでもありません。
近年では「スペースX」などの民間企業が宇宙探査に積極的に取り組んでおり、月に対する関心も再び高まっています。
またNASAも、再び有人の月面着陸を目指す「アルテミス計画」を立てています。
目標は「最初の女性を、次の男性を」月面に着陸させることであり、2019年5月に発表されました。
当初は2024年までにミッションを実施する予定でしたが、新型宇宙船の改善により遅延しています。
今のところ、アルテミス3号のミッションが2026年に計画されており、もしかしたらあと数年で、人類13人目の月面歩行者が誕生するかもしれません。
人類の月面での歩みはこれからも続くのです。